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50代無職独身男が身につまされた「ミッシングワーカー」問題

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第十九回

■アパートも貸してもらえない現実 

ただし、その閉じた場所には、その中だけで通じる便利さや居心地の良さもある。

 誰もが病気や薬に詳しくて、誰もが介護用品や車いすを使えて、誰もが無職の介護人に理解がある。限定的にやさしい共同体。

 そのような特殊な環境で5年も10年も過ごしてしまうと、再び外の世界へ出るのがいかに苦痛でしんどくて、どれほどハードルが高いか。

 動物園で暮らしていた若くないサルが、いきなり外へ放り出されても、もう餌の取り方を忘れてしまって、新しい群れに交じることもできない。働くことをあきらめてしまったミッシングワーカーは、おそらくこれに近い。

 介護を終えた人がもう一度社会へ出て働けなくなるのは、再就職の口がないなどの理由より、こちらの壁のほうが大きいように思う。

 この話題は引き続き、次回も取り上げたいが、実際に社会復帰しようとしたときに直面した、些細な困った出来事をひとつ。

 介護生活を終えてしばらく身を休めた後、再び東京へ戻り、仕事を再開しようとした某カイガーマン。しかし、なんということだろう。新生活のための賃貸住宅が、スムーズに借りられないのである。

  50代独身、ほぼ無職の自由業。「収入の証明書を提出してください」と言われても、長年、介護生活を送ってきた人間にまともな収入などあるはずがない。保証人にハンコを捺してもらえば賃貸契約できるシステムが、現在は主流でなくなったらしく、信用会社の審査に通らないと契約ができないという。

 そうなると、家族なし、勤務先なし、収入ちょぼちょぼの、一時的に社会から消えたミッシングおっさんは、たちまち苦しくなる。

「ああ、自分は今、まともにアパートも貸してもらえない社会弱者なのか……」と、軽く落ち込んだ。

※本連載は隔週木曜日「夕暮時」に更新します。本連載に関するご意見・ご要望は「besttimes■bestsellers.co.jp」までお送りください(■を@に変えてください)。連載第1~10回はnoteで公開中!

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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