【今日は「地獄」か「天国」か。談志師匠に振り回された前座時代の1日】 | BEST T!MESコラム

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今日は「地獄」か「天国」か。談志師匠に振り回された前座時代の1日

大事なことはすべて 立川談志に教わった第3回

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 1年2か月もの長きにわたった見習い生活に別れを告げ、晴れて芸名「立川ワコール」と決まったのは、ホントにうれしいことでしたが、ただあくまでも見習いが終わり、「こいつなら楽屋泥棒もしなさそうだし、楽屋にいても迷惑はかけないだろう」という最低限の評価を得たにすぎません。

 

 ここから前座生活が始まります。

 前座の基本的な一日とは、「師匠の用をこなす」のが第一義なのは相変わらずです。落語会のない日の前座時代の合言葉は「12時練馬集合」。大泉の師匠宅の近所のスーパーの公衆電話前に11時50分頃、集合します。

 そこから師匠に電話し、「すぐ入ってくれ」と言われたら「地獄」、「今日は一人でいさせてくれ」と言われたら「天国」なのです。

 まあ、天国として「与えられた自由な時間」の積み重ねが、あとあと「二つ目昇進の差」にもつながるのですが、当時はそんなこと知る由もありません。

 師匠から招集がかかったら、その日一日は師匠と行動を共にし、師匠に言われたことをひたすらこなします。練馬の家の掃除や片付けだったり、ツツジの手入れだったり、スクラップブックの整理だったり、洗面所の修理だったり……。

「こんなことやって、いったい何の役に立つのか」と思いますが、今、結婚して家庭を持って非常に役立っています。

 冗談はともかくとして、そこでも常に師匠から行動をチェックされるのです。後ろにも目のある師匠です。トイレ掃除だからといって気は抜けません。常に前座がどこに配置され、今、何をしているか把握しているのです。

 ひとしきり前座としての勤めを終えた後、事務所へと師匠から言われた要件に走る弟子もいれば、前座として他の師匠の独演会や寄席に向かう弟子もいます。何も予定のない弟子は、ひたすら師匠が「帰れ」と言うまでそばにいることになります。

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立川 談慶

たてかわ だんけい

昭和40(1965)年長野県上田市(旧丸子町)出身。1988年慶応義塾大学経済学部を卒業後、㈱ワコールに入社。セールスマンとしての傍ら、福岡吉本一期生として活動。平成3(1991)年4月立川談志門下へ入門。前座名立川ワコール。平成12(2000)年12月、二つ目昇進、談志より「談慶」と命名。平成17(2005)年4月、真打ち昇進。平成22(2009)年から二年間、佐久市総合文化施設コスモホール館長に就任。平成25(2013)年、「大事なことはすべて立川談志(ししょう)に教わった」(KKベストセラーズ)出版、以来、「落語力」「いつも同じお題なのになぜ落語家の話は面白いのか」「めんどうくさい人の接し方、かわし方」「落語家直伝うまい!授業のつくり方」「なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか」「人生を味わう古典落語の名文句」など「落語とビジネス」にちなんだ書籍の執筆。NHK総合「民謡魂」BS日テレ「鉄道唱歌の旅」テレ朝系「Qさま!」CX系「アウトデラックス」「テレビ寺子屋」などテレビ出演も多数。現在、東京新聞月一エッセイ「笑う門には福来る」絶賛好評連載中


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