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【深刻な教員不足】文科省は子どもたちの「学ぶ権利」を守れるのか

第73回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■必要なのは「調査」ではなく「対策」と「改善」

 数学や理科などを教えている教員の中には、情報科の免許を保有している「隠れ情報科教員」が存在するという。そういう教員に担当させれば、教員の不足は解消できるという説もある。
 ただし、数学を担当していた教員が情報科だけを担当すればいいということにはならない。そんなことをすれば、今度は数学の担任が不足することになるからだ。
「隠れ情報科教員」が情報科を担当するということは、情報科も担当するが、それまでの専門科目も引き続き担当しなければならなくなる。教員の負担の大きくしてしまう。
 そもそも「隠れ情報科教員」自体が不足している地域もある。長野県や栃木県は、情報科の免許を持つ全員を充てても不足するという。教員不足にも地域差が存在しているのだ。

 このように、様々な形で教員が不足しており、教員不足はすでに深刻な問題になっている。それにも関わらず萩生田文科相は、実態を把握する「初めて」の調査を実施する考えを明らかにしたのだ。念を押すと、調査の実施が具体的に決まったわけではない。「実施する考え」が明らかにされただけである。

 では、文科省は教員不足の実態をまったく把握していないのだろうか。そんなことはない。先の『毎日新聞』の記事は、「文科省への取材」で分かったという事実を報じている。教員不足の事実を、すでに文科省は把握している。しかし、教員不足に対して具体的で効果的な施策を打ち出せていないのだ。

 高校での情報科教員の不足について、文科省が行ったのは「免許保有者を積極的に採用したり、情報科の免許を持ちながら他教科を担当している教員の配置を見直したりして指導体制を整えるよう都道府県と政令市の教育委員会に通知した」(『毎日新聞』)だけである。
 教員を増やすには文科省も役割を果たさなければならないが、そうではなくて「何とかしろ」と指示しているだけなのだ。「言うだけなら誰にでもできる」という教育委員会からの声が聞こえてきそうだ。

 萩生田文科相は初めての実態調査を実施して、そこから、どのようなアクションにつなげていくのだろうか。実態調査によって教員不足が浮き彫りになることは確実である。「教員不足は深刻です」と発表して、教育委員会に指示して文科省としては終わりにするのだろうか。
 それとも、実態調査の結果を武器に、教員数を増やすために財務省と正面からの戦いを挑み、予算を獲得する覚悟を決めているのだろうか。萩生田文科相と文科省の本気度と覚悟が注目されている。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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