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好きなものを好きというのはなぜ怖い?
【注目マンガ家インタビュー〜山口つばささん(後編)】

【そこが聞きたい! マンガ家INTERVIEW〜山口つばささん(後編)】今、注目のマンガ家に迫るロングインタビュー

■ 「好き」を突きつめた先にあるもの

――作中に「好きなものを好きっていうのって 怖いんだな」というセリフがあります。これも名言ですよね。共感する若者も多いと思うのですが、その背景には何があると思いますか?

写真を拡大 初めて心が動いた風景を絵にしようとして、何かに気付く八虎。 ©山口つばさ/講談社

山口 うーん、割と常に思っていることなんですよね。聞きかじった話ですが、日本って子どもを叱るとき、家族のルールを守れないなら出て行きなさい、クラスのルールを守れないなら廊下に出なさいみたいな感じで外に出すじゃないですか。アメリカの場合は冷静になって自分は何が悪かったのかを考えるため、一定の時間を決めて部屋のなかから出さないらしいです(※)。そういうのが関係あるのかなと思ったことはあります。

※欧米のしつけ法で「タイムアウト」という。

――たしかに、自分で考えなさいという欧米方式と輪から外すみたいな日本のやり方だと、日本の方が横並びの意見になりやすくなる気がします。

山口 海外でも、好きといいづらい状況はあると思いますけどね。

――森美術館の南條史生さんにお話を伺ったことがあるのですが、日本の美術教育と欧米の美術教育は違うという話をされていて、今の話に通じるなと思いました。

山口 美術教育の違いはあると思います。その方面に詳しいわけじゃないんですけど、中学校の美術のテストって、「この絵をみてどう思ったか」を書かせるんじゃなくて、「この作品をどう思うか? A:きれい B:おだやか C:激しい」みたいに選択肢が決めてあったりするじゃないですか。そこから選ばせるから「こう感じなきゃいけないんだ」と思いがちというか。

――イギリスの美術の授業では答えやゴールを決めず、A「私はこう思う」先生「BさんはAさんの意見をどう思うの?」B「私はこう思う」先生「CさんはBさんの意見をどう思う?」…と延々モデレーションを続けていくと聞いたことがあります。ちなみに、本作のゴールは決まっているんですか?

 

山口 八虎が大学入ってからとか、美術業界のことを描きたいので、受験編・大学編みたいにしたいんですけどね。

――就職編とかも見てみたいです。ただ、収入が伴わないと年を重ねた時に絵を描く環境が維持しにくくなるのかなと思うんですけど、今後、その辺りを描くご予定は?

山口 そうですね。「絵で喰っていくのってすごく大変だぞ」って言われがちなことなんですけど、実際はどれぐらい楽しくて、どのぐらい大変で、お金はどうやって回すのか、といったことは描きたいな、描けたらいいなと思っていることのひとつです。

――言うほど大変じゃないことも沢山ありそうだし、でも軽く言うほど簡単ではないでしょうし。でも、すごく知りたい話だということは間違いないです。

山口 描けるようにがんばります。

――では、好きなことを突きつめると、その先にどんないいことが待ちうけていると思いますか?

山口 なんだろう……突きつめるのレベルによると思いますけど、「自分の意見をちゃんと持てるようになる」というのはあるかなあ。許せない範囲は増えますが、「他人の意見は他人の意見で尊重できるようになる」「頑張っている人を応援できるようになる」とか。うーん、自分がいま突きつめている最中なのでわからないですね…。

――では、情熱を傾けられるような「好きなことを見つける」にはどうしたらよいでしょう?

山口 人間って大きな決断とか何か行動をおこすとき、理由がないとやりづらいらしくて。私は「いつかマンガに描いてやる!」みたいな感じで色々やるようにしています。「モテるため」でもなんでもいいから、理由を作って何でもやってみるというのはいかがでしょうか。

 

 

■著者プロフィール

山口つばさ

東京都出身。四季賞2014年夏のコンテスト佳作。現在、「アフタヌーン」にて『ブルーピリオド』連載中。その他の単行本に『彼女と彼女の猫』(原作:新海誠)

 

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