安倍晋三、菅義偉、小泉進次郎…なぜ日本人はかくも小粒になったのか【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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安倍晋三、菅義偉、小泉進次郎…なぜ日本人はかくも小粒になったのか【福田和也】

福田和也「乱世を生きる眼」

 

 

 戦時体制を担った重鎮たちが追放されて、あとを担った、「三等重役」と揶揄(やゆ)された経営者たち。陸軍海軍から放りだされて路頭に迷い、企業戦士となった若い将校たち。

 占領軍の理不尽な規制と、社会主義・共産主義の荒波に揉まれながら戦後の混乱を収拾した官僚たち。

 政治家たちだってたいしたものでした。一度は引退したロートル外交官の吉田茂も、巣鴨プリズン帰りの岸信介も、政界の裏も表も知り尽くした三木武吉(ぶきち)も、死力を尽くして国家、国民のために働きました。

 企業家だってそうです。松下幸之助だって本田宗一郎だって、盛田昭夫だって、ちっちゃな町工場から、世界企業を作りあげたではないですか。

 今、中国の、韓国の、インドやシンガポールの企業が世界市場に進出するようになったのも、みんな昭和の日本を見倣ったからです。

 アジアでも、繁栄した産業国家を樹立し得ると、わが国が身を以て示したからです。

 もちろん、その偉業は国民一人一人が生活の、社会の再建のために死力を尽くして働いたから成し遂げられたものですが。

 いずれにしろ、昭和の後期まで、日本には人物といえるような存在が、ふんだんにいたのです。

 けれど、今はどうでしょうか。

 優れた人はいるでしょう。

 専門知に秀でた人もたくさんいるでしょう。

 商才に秀でた人も、数えきれないほどいるでしょう。

 人あたりのいい、感じのよい人もいるでしょう。

 けれど、誠に残念なことに、人物と呼べるほどの人はいない。

 みな才子なのです。

 小利口で、目端がきいて、気の利いた事もいえる。場合によっては、大物ぶってみるほどの技すらもっているでしょう。

 良心的で、真面目で人間愛に満ちている。

 けれども、到底人物とはいえない。

 小粒な、おさまりのいい、メディアが重宝がるだけの存在にすぎない。

 深みもなければ、重みもない。

 要領だけは滅法よく、情報技術に通じている。

 そういった小粒な才子は、いくらでもいるけれど、人物と云い得るほどの存在は、まったくいないのです。

 たしかに、小泉純一郎元総理のような、一陣の嵐を巻き起こした政治家はいました。

 彼の全盛期の勢いは、凄まじかった。

 けれども、一体何を彼がなしたのか。

 その改革なるものの内実を問う事は、とりあえず私の任ではありません。

 けれど、あれが狂騒以外の何ものでもなかった、という事は断言できます。

 彼が非常に優れたアジテーターであった事はたしかでしょう。

 でもそれだけでした。まったくの空っぽでしかなかった。

 スローガンにも至らない、短い言葉ーーワン・フレーズーーをつなぎ、叫ぶことはしたけれど、それきりでした。それ以外の何もなかった。

 その単純さ、無内容さに、国民は歓呼したのです。

 

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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