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風俗女子が自分自身、そして社会とつながるために大切なものとは?

「セックスワークサミット2017冬」レポート 後編

岩切 立正大学法学部の岩切と申します。私は『性風俗と法秩序』(尚学社)の中で、「売春法制と性風俗法制の交錯」という論文を書きました。

 論文の内容を簡単に説明します。売春防止法の観点から見ればソープランドは違法な存在ですが、事実として営業している。法と事実の狭間に置かれているため、営業自体は可能だが、法的な立場が保障されていない。それゆえに行政のさじ加減一つで、いつでもなくすことができる。

 こうした不安定な状態はソープ以外の性風俗サービス全般にも共通するので、これを変える必要がある。法的な隙間は法によって埋めましょう、という主張です。

 売春防止法は、3条で売春を違法にしています(何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。)この背景には戦前の公娼制とそこで働いていた女性たちの過酷な労働環境があり、人身売買や搾取を防ぐという目的があります。

 ただ、売春の勧誘などを違法としている国は多いのですが、売春それ自体を違法にしている国は、実は世界的に見ても珍しいと言われています。

 売春にまつわる人身売買や搾取こそが悪いのであれば、売春自体を全面的に違法にすることは理屈に合わない。また売防法は「そもそも売春は性道徳に反する」「人として、道徳的におかしい」という考え方によって支えられています。

 ソープをはじめとした性風俗関連特殊営業は、風営法によって規制されています。キャバクラなどの風俗営業は適正化の対象になっています。しかし国の見解では、性風俗関連特殊営業は適正化を望めない、適正化を観念する余地は無いとされているため、届出制になっています。

 つまり現状では、売春防止法で違法とされているものが、風営法の中に違法のまま含まれている。法律の中に入っているように思えながら、ドーナツのように中身は無い。

 こうした状態に基づいて、性風俗に対する社会的な意識がつくられる。現実に法律的な問題が生じた時に、良くないことが起こるというわけです。

 では、どんな方向で考えていくべきでしょうか?法的な空白地帯に必要なのは権利論です。つまり、現場で働く人の権利保障を確立しないといけない。

 カナダでは、売春を禁止する法律に対して「サービス提供者を危険にするから」という理由で違憲判決が出たことがあります。

 性サービスも労働なので、キャストなどのサービス提供者が被用者に当たるのか個人事業主なのかはともかく、(いわば)「表」社会の法律の基準を業界にも当てはめて考えるべきでしょう。

 売春防止法の理念は、人身売買や搾取の予防です。それらをなくすことが目的であるならば、適正化の方向性も、それらの原因をなくすことに向けられるべきでしょう。

 その場合でも、何を「適正」と呼ぶべきか、そして誰がどのように「適正」の中身を決めるべきか、という問題は残ります。その判断を全て警察に任せるよりも、業界内で自主的なルールを定めてお客さんにも守ってもらう、という方向性が望ましいかもしれません。

坂爪 今岩切さんにおっしゃって頂いたように、道徳的な観点だけで語られがちだった売春や風俗の問題を、働いている人の安心と安全をどう守るかという権利の観点でとらえ返していこう、ということが本日の大きなテーマになります。

 道徳論ではなく、実際に現場で働いている人の安心・安全をどう守るか。そのために、法律という切り口で、足りないものが何なのか、どういった仕組みがあればいいかを考えながら、あるべき法律の姿を考えていきたいと思います。

 もちろん「これが正解だ」という唯一の答えはありませんが、「これからこういった方向性に行けばいいのでは」という指針を提示できればと考えております。

 まず、法的に適正化を望めない世界になっている結果、現場でどのような問題が起こっているかを、風俗コンサルタントの大崎さんにお伺いいたします。

大崎 健全営業をしている店舗からすると、特に差し迫った問題は起こっていません。会場の皆さんにお聞きしますが、キャストとして働く上で、店舗を経営する上で、ユーザーとして利用する上で、「あの法律のせいでこんなことになった」というようなことはありましたか。おそらくないと思います。

坂爪 法律上、適正化の指針が無いからといって、現場レベルでは特に問題が起こっているわけではないと。

大崎 問題があるかないかで言えば、ないです。私自身が関わっているのは健全営業している店舗だけです。指定暴力団が絡んでいるような店舗、法令を守らない店舗は、そもそも関わっていない。

 何万もの店舗がある中で、風俗店に関する事件がニュースで取り沙汰されたり、風俗のスカウトが殺人を起こして報道されることはありますが、実際それが業界全体の中でどれだけあるかといえば、ほんのわずかだと思います。

 そのわずかな部分だけに着目されて、問題として引き上げられるのは困る。「木を見て森を見ず」ではないでしょうか。

坂爪 現場レベルでみれば、確かに大崎さんのおっしゃる通りだと思います。

 ただ今回、私が適正風俗というテーマを提案した背景には、昨年社会問題化したAV出演強要問題があります。事件が起こった時、AV業界の多くの人たちは「あんなのはごく一部の話だよ」「ほとんどの人は真面目にやっている」と切り捨てようとした。しかし、それができずに、結果的に業界全体と社会を巻き込んで大きな問題になった。

 そのため、実際に問題が起こってから、被害者が出てからでは遅いというのが私の問題意識です。問題が起こる前、被害者が出る前に先手を打ちたい。できることはやっておくべきだと考えています。

 その点を踏まえて、弁護士の浦崎さんに質問です。風テラスで性風俗店で働く女性の生活・法律相談活動を行っていく中で、現行の法律について「これが足りない」「もう少しこうなればいいな」と思われていることがありましたら、お伺いしたいのですが。

浦崎 私は風テラスの相談員として、この2年間、毎月風俗店にお伺いして、待機部屋で法律相談を行わせて頂いております。メディアに取り上げられた風テラスの記事などを見て、私の事務所に直接お電話をかけてこられる女性もおられます。

 相談の中身自体は、何か特別なトラブルに巻き込まれているというよりも、生活費が足りない、離婚や借金の問題など、一般の生活・法律相談と変わらないものがほとんどです。

 ただ、風俗嬢という立場による相談のしづらさはある。「今の仕事のことを弁護士さんに話したら、怒られるんじゃないのか」と不安に思われている方もいる。

 中には、役所に相談に行って思い切って仕事のことを話したら、「そんな仕事は辞めなさい」と怒られた、という話も聞きます。

 相談の中身以上に、相談自体のしづらさ、つながりづらさが背景にある。風俗に対する社会的なスティグマ(負の烙印)の問題や、風俗で働く方のポジションが社会的にふわっとしていることも含めて、働いていることをオープンにした時の波及効果や不利益がよく分からないことが、専門家に相談することをためらわせている。

 働いている方全体を見れば、弁護士に相談するようなケースはごく一部なのかもしれません。しかし、そのごく一部の方にとってつながりにくい存在であるということは、この領域に関わる専門性のある弁護士が育たない、ということになる。

 仮に弁護士を必要としている方が1%であったとしても、その1%の方がつながりづらいのであれば、残りの99%の方にとっても、いざという時に弁護士が見つけづらいことになる。それは働いている方全体にとって決していいことではない、という問題意識は持っています。

 

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「セックスワーク・サミット2018春「知ってスッキリ!『風俗と税金』入門講座」(主催:一般社団法人ホワイトハンズ)が、2018年3月18日(日)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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