もしもあなたが真実を愛するならば、まず何よりも虚偽に通じなければならない【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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もしもあなたが真実を愛するならば、まず何よりも虚偽に通じなければならない【福田和也】

福田和也の対話術

 

 緊張を強いること、威圧を強いることを忘れてはなりません。緊張した時に、はじめて相手はあなたのことを、どこにでもいる都合のよい会話や交際の相手としてでなく、自分を脅(おびや)かすかもしれないが、大きな刺激を与えてくれるかもしれない相手として認めるのです。威圧することを恐れてはなりません。あなたが、自分の尊厳にふさわしい扱いをしてもらいたいと望むのならば、威圧することを厭(いと)うてはならないのです。

 時代は、緊張をきらい、むしろ和み、リラックスすることを好んでいます。けれども、本当の和みというものは、緊張と対(つい)になっていてはじめて味わうべきものとなるのです。緊張なき和みは、ただの弛緩(しかん)にすぎません。

 もちろん、緊張とか威圧というのは、別にいかり肩や険しい表情で作るものではありません。あるいは、解り易い高価な服や装飾品、高飛車な態度で作り出されるべきものでもないのです。むしろ微笑と、腰の低い態度、目立つことのない上品な身だしなみのなかで、いかに威圧感を作り出すか。それはエレガンスの完成地点として、(若いみなさんに十年ごしの目標として)掲げていただきたいと思いますが、そのためにも、まず相手に緊張感を与えることを忘れないこと、そのためのいろいろな手管を覚えることからはじめなければならないでしょう。

 

 それで本題に戻ります。ミスティフィカシオンとは、原義からすると、ミスティフィすること、つまり謎や神秘を漂わせる、ということです。つまり訳のわからない、容易には安心出来ない雰囲気を漂わすことなのです。

 云い方を変えると、コイツはどういう奴なんだろう、という緊張感を相手に与えるということです。

 ですから、ミスティフィカシオンというのは、今日云われるキャラ立ちというのとは、少し違って、むしろ逆にキャラクターの枠のなかに収まらない、簡単には入らない、それどころか会話の相手の引き出しからもはみだしてしまうような緊張感を相手に与えることなのですね。

 と同時にあまり警戒させてもいけない。というところで、ユーモアの必要が出てくるのです。

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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