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「うつ病診断」ですり替えられる労働環境問題

「あたなは“うつ”ではありません」産業医の警告3

 木村さんは私がC社の産業医になる以前にうつ病と診断され、4年ほどの期間、休職と復職を繰り返していました。

 もっとも、復職といっても本格的なものではなく、月・水・金の午前中だけの勤務です。私がC社の産業医になった時も、そのような状況が続いていました。
 この木村さんがとった驚きの行動は、うつ病の休職中にネット上で女性と知り合い、婚約するにいたったというものです。

 詳しく話を聞けば、休職中に家ですることがなかったので、婚活サイトに登録し、そこで知り合った女性とデートを重ねていくうちに、結婚の話になったとのことでした。
 さらに驚いたのは、相手の女性が車で高速を利用して片道3時間という遠方に住んでいたことです。
 彼女とデートを重ねて婚約にいたるには、気力・体力ともに充実していなければ難しかったと思われます。ちなみに、木村さんは週1、2回ほどのペースで彼女と会っていたそうです。

 これも誤解のないようにお断りしておきますが、私は別に「うつ病なんだから恋愛や結婚をするな」と言いたいわけではありません。

 事例①の田中さんのケースでも述べた通り、うつ病は、激しく気分が落ち込み、行動を起こすためのエネルギーが不足する病気です。一般的には、性欲や体力も低下します。

 それを踏まえると、これほどエネルギッシュな木村さんをうつ病だとする診断には疑問を覚えずにはいられません。

 ひとりの女性と出会って恋愛し、結婚の話にいたるには、かなりのエネルギーが必要です。身だしなみに気を使ったり、相手を楽しませようと気を配ったりはもちろん、木村さんの場合には、車を片道3時間運転する体力も必要でした。

 常識的に考えると、それほど恋愛に費やせるエネルギーがあるなら、徒歩10 分の職場(木村さんは会社近くの社員寮に住んでいました)に出勤して仕事をするエネルギーもありそうなものですが……。

【うつ病の診断書は、誰も逆らえない「印籠」】

 ここで紹介した田中さん達のようなケースがうつ病だと診断される例は、ひと昔の日本の精神医学界では考えられないことでした。

 それが大きく変わったのは、アメリカの精神医学界から輸入されたDSMが日本の精神医学界に浸透し、うつ病の診断基準が大きく広げられるようになってからです。

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山田 博規

やまだ ひろき

1959年生まれ。1984年神戸大学医学部卒業後、住友病院内科勤務。1987年神戸大学医学部第三内科医員。1991年医学博士。2001年医療法人善仁会理事 大橋クリニック院長。2009年山田内科羽田腎クリニック院長。2011年日本医師会認定産業医に。2012年には、厚生労働省から労働衛生コンサルタントとして公認。その後、日本サムスン、オートバックス、浅草今半、千代田食品、日洋、海自検定協会、ジャパンディスプレイなど、さまざまな企業の産業医として、メンタルヘルスの問題を抱える多くの働く人々との面談を行っている。


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