会話に付きまとう「噓」と「真実」を見極めるのは難しいけれど…【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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会話に付きまとう「噓」と「真実」を見極めるのは難しいけれど…【福田和也】

福田和也の対話術

 

 人間関係の難しさに悩む、といった人の悩みのほとんどが、こうした対話の不透明性に発するものです。つまり真実が虚偽にすり代わり、虚偽が真実に生まれ変わってしまう、コミュニケーションの不透明性に悩んでいるのだと思います。

 たしかに、本当のことを云ったのに虚偽ととられたり、あるいは虚偽だと疑っていたことが本当だったりという、対話関係のなかの不確定性はスリルとストレスにとんでいます。

 云いたいことを云い、聞いたままに信じたい、信じてほしい。そうした無垢への要求は、誰でももっていることでしょう。もしも世の中がそのように単純であったら、どれほど生きるのはたやすいだろうか、と。

 しかし、そのたやすい生き方とは、動物の生き方にすぎません。動物は本能というプログラム通りに生きます。たしかにそこには悩みも迷いもありません。飢えや危害を加えられる以外の苦しみもないでしょう。しかし、同時に喜びも快楽もありません。

 人間の世界は、動物の生きる、本能に律された世界に比べれば、不透明であり、錯綜しています。

 けれども考え方を変えれば、こうした不透明さや錯綜こそが、人間の世界の膨(ふく)らみであり、豊かさなのです。この膨らみを肯定し、受け入れないのならば、人間として生きる意味がない、と云ってもいい。

 逆に云えば、対話の不透明さこそが、人間に特有のものであり、つまりはもっとも人間的なもの、ヒューマンな事由(じゆう)なのです。

 もしも世間の中で、旺盛に楽しく生きていこうと望むのなら、生まれてきた甲斐があるように生きたいと思うのならば、この不透明さを、捩(ねじ)れを、錯綜を前提として受け入れ、むしろそれを楽しまなければなりません。

 それはけして、シニシズムに堕( )することでも、相対主義に全面的に屈服することでもありません。むしろかような人間的な捩れの中にこそ、不純さのただ中にこそ、無垢が、誠実がありうると信じることなのです。そして、実際にそれは存在するのです。

 

『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』から本文一部抜粋)

 

 

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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