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「監督のせいにしては駄目だと思う」大迫勇也が冷静に振り返ったハリルジャパン欧州遠征

低迷する日本代表に求められる「自分」とは

■監督のせいにしちゃダメ
 

「まずは個人で結果ですよ。ゴールとアシストを貪欲に狙い続けないといけない」
 大迫はゴールマウスを背負う形でパスを受けることが多い。そこでターンをし、前を向ければ、自身に大きなチャンスが生まれるはずだが、それを作るのは容易ではない。よって、ゴールはおろか、シュートを打つ機会もわずかだ。
「僕よりほかの選手のほうがチャンスは増えると思います、確実に。あそこで起点を作る形だと、ゴールへ入るのが遅れることもある。でも、そこで自分のなかで何かをつかめれば、ゴールに近づけると思う」
 日本代表の得点チャンスが少ない。バリエーションを作るのは監督なのか? それとも選手なのか? たとえば、足元だけでなく、大迫自身が裏へ抜けていく形があってもいいだろう。
「それはもちろんあります。監督がどうこうじゃないですね。監督はアイディアをくれるだけで、ピッチの中でやって成功すれば何も言わない。自信がないからやらないんだと思う。もちろんゴール前へ入る回数は増やさないといけない。そうすれば、確実にチャンス数が増える。あとは入るタイミングと質ですね。常にゴールに向かっていくこと、ゴールに身体を向けることが大事」
 この時点で、大迫には「選手自身のアイディア」で数多くのチャンスを作りたいという意欲が感じられた。

 

 そして、3月23日のマリ戦は1-1。終了間際になんとか追いついたという苦戦だった。
 大迫は、といえば右の久保裕也とはこれまでも何度かプレーをしているが、左に宇佐美貴史、トップ下の森岡亮太と慣れない組み合わせだったことも影響したのか、好機を演出するまでには至らなかった。
 試合翌日の3月24日に訊いた。
「ただ、単に縦に早い攻撃だけじゃ無理だというのは、やっている選手も感じていると思う。1本のパスで、得点を取るというのは、ああいうアフリカ系の相手に対しては難しい。そこで裏を狙うのももちろんだけど、1本、2本、揺さぶるパスというのが大事なる。そこで食いつかせることが、さらに裏という意識を引きたたせるのかなと思う。そのイメージの共有だけでもあればよかったけれど、新しい選手も多かったし、特長もまだわからない、というのが少なからずあったと思うから。
 一番は、悩みながら、考えながらプレーしている選手が多いこと。そこが問題だと思う。その迷いがいま、良くない方向へ向かっているというか、考えること自体が。なかなかスムーズに回っていないというのが現状ですけど。スムーズに考えずにプレーできるようになれば、もっともっと変わっていくと思う」
 その迷いの原因についてはこう答えた。
「日本代表のサッカーはこういうサッカーというのが決まっているわけであって、そこで、少なからず所属チームとは違うことをやるわけだから、そこは、考えることは、新しく来た選手は考えると思います」
 そして、大迫は言った。
「監督がメンバーを決め、戦術を決める。僕たちはそのなかでプレーしているわけですから。ただ、プレーするのは自分たちであって、評価されるのは自分たちだから。自分でプレーするわけだから、判断は自分で決めないといけない。そこは監督のせいにしちゃダメだと思います」

 翌25日、大迫は負傷のため練習を回避している。26日の練習前にハリルホジッチと言葉を交わすシーンがあったが、結局27日のウクライナ戦には出場しなかった。試合は1-2で敗れた。
 前半のシュートはDFの植田直通と得点にもなった槙野智章の2本のみ。杉本健勇や小林悠が1トップとして起用されたが、大迫の不在の大きさを痛感する試合だった。
「怪我は大丈夫ですよ。まったく問題ない。『いろいろな選手を見たいから』という話があった。本田(圭佑)さんが入り、前半はあそこで起点をつくれたたけど、なかなか前で起点がつくれなかった。難しい試合だったんじゃないかと思う」
 センターフォワードがシュートを打てない現状について訊かれるとこう答えた。
「打開策は、もちろんありますけど、まず第一にもっと選手が責任感のあるプレーをしないといけない。球際で負けないといか、無責任なプレーもあったと思うし。言われたことだけをやっている選手がいることも、見ていてすごく感じた。本当に、日本代表が強くなるためにプレーすべきだと思うし、もっともっと自分を出していいと思います」
 ケルンで話したの同様に、「自分たち」発信のプレーの必要性を大迫は訴えた。

 4年前、ブラジルワールドカップのメンバーに滑り込んだ大迫は、当確ライン上にいる選手の気持ちも理解できる。
 監督の指示に忠実なプレーはアピールに繋がる。実際、指示とは違うプレーをしたことで、出場機会を失った選手もいる。
 しかし、監督の要求には従う。ただそれだけでは、戦えない。彼もまた、ブラジルでそれを痛感したひとりだ。攻撃のバリエーション、臨機応変なアイディアを生み出すのは、選手の個性であり、武器だ。だからこそ、個性を発揮する強引なプレーがチームを強くすることに繋がると訴えたいのだろうと思った。
「危機感はもちろんあるし、このままではダメだということはみんなわかっている。ただ、それを外に向けるのではなくて、自分たちに向けることが大事。まずは自分たちに向くべきだとは思います」
 選手たちはクラブへ戻り、それぞれの現実に向き合う。
 そのなかで、自分のプレーを確認し、整理し、現実を受け入れる。そういう作業を経て自信を培い、「自分発信」のプレーを代表で発揮できるようになれば、日本代表が抱える現状の危機感を打開できるのかもしれない。
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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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