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田舎へ帰って、死を身近に感じるようになった理由

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第十四回

■田舎と都会の一番の違い。それは「死の匂いの近さ」

 しかし、田舎と都会の一番の違いは、もっと別のところにある。それは日常における、死の匂いの近さだ。

 地方では結婚式場がどんどんつぶれて、葬式場に変わっていくと、ジョーク交じりによく言われる。若者がどんどん減り、年寄りばかり増えていけば、自然とそうなる。

 うちの近所にも冠婚葬祭すべてを手がけるホールがあったが、ほぼ毎日「本日のご葬儀 ○○家」という掲示を目にする一方、結婚式の掲示はたまに見かける程度。

 ほかにも、介護施設や老人ホームの多さ、夜に鳴り響く救急車の音、ローカル新聞の「お悔やみ欄」の大きさなど、死や病気の断片が、身近に、当たり前のように横たわっている。回覧板を持ってくるお隣のおばあさんは、いつも線香の匂いがした。

 これは自分の両親が病気だったから、ことのほか感じた違いなのかも知れない。でも、それだけじゃないと思う。

 スーパーへ買い物に行くと、ある日、惣菜のコーナーを「ぼたもち」が占拠している。お彼岸の全国的な光景と思うかも知れないけど、気合の入り方、振り幅の大きさが、都会のスーパーとは比べ物にならない。

 実家に帰る前は、ぼたもちとおはぎの違いも知らなかった。春のお彼岸に供えるのがぼたもちで、秋のお彼岸に供えるのはおはぎ。いや、物は同じで、呼び方が変わるだけだ。春の「牡丹の花」から来ているのが、ぼたもち。秋の「萩の花」から来ているのが、おはぎ。そう覚えればいい。

 親の介護に追われていると、暦がさっぱりわからなくなるが、ご先祖様や死にまつわる行事は町が教えてくれる。

 お盆が近づくと「供花」があふれるのも当たり前で、お盆に限らず普段からいろんな店で、花の品揃えが充実している。お墓参りや、病院へのお見舞いの習慣が日常だからだろう。

 
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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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