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『文庫X』仕掛け人 新人女性作家の挑戦作。自分ならここを売り出す

本のプロが読む、額賀澪『拝啓、本が売れません』(「さわや書店」長江貴士さん)

 じゃあ、本書を、本書のターゲットからかけ離れた人に手にとってもらうための「変換」は出来るだろうか?

 本書のターゲットではない人として、「専業主婦」や「お年寄り」を想定することが出来る。彼らはモノを生み出すことや、モノを届けることからは、ちょっと遠い存在だと思うからだ。そういう人たちに、本書を「自分が読むべき本」と感じてもらうために、例えばこんなPOPを付けてみるというのはどうだろう?

 【先日芥川賞を受賞した『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子 河出書房新社)は、過去の芥川賞受賞作品と比較してもかなり売れているようです。若竹さんは年配の専業主婦の方です。出版業界に伝手があったわけでも、インターネットやマーケティングの凄い知識を持っていたわけでもないでしょう。じゃあ何故『おらおらでひとりいぐも』はこれほど売れているのでしょうか?
本書にその答えの一端があります。つまり「小説」というのは、文章“のみ”で勝負が出来る、非常に稀有な分野なのです】

 POPのフレーズとしてはこなれていなくて申し訳ないが、言いたいことは伝わるだろう。本書『拝啓、本が売れません』を読んでもらえれば、この文章にも納得してもらえるはずだ。こういうことを業界にいる全員が日々考え続ければ、本の良さは届きやすくなるだろうし、可能性は広がっていくだろう。

 話は変わるが、本書の中で、僕の上司である松本大介がこんな風に言う場面がある。

 『だってさー、プルーフを配ったって、読む側は<いいコメント>しか書かないし、配る側も<いいコメント>しか求めてないでしょ。<何でも褒めるだけ>の風潮が蔓延してるんだよ』

「プルーフ」というのは、発売前に書店員などに配られる見本のようなものだ。僕も時々いただくが(本書も発売前に読ませていただいた)、僕は悪い感想も積極的に書く人間だ。「面白くない」という評価ではなく、「僕には合わなかった」という書き方をするが、そういうことを書くことで、「だからこういう人に勧めた方がいいと思いますよ」という前向きな話も出来るので、意識してそうしている。また、「変換」の意識には、「悪く見えてしまう部分を補う」という要素もある。だから悪い感想を書くことで、「悪く見える部分」をはっきり言語化出来るレベルで捉える、という理由もある。

 <何でも褒めるだけ>という風潮は、僕も感じている。とはいえ、全員に「素晴らしい」と感じてもらえる作品など、そうそうあるはずがない。話は少しずれるが、僕は帯などに「著者最高傑作」と書かれていると、「あぁ、それ以外にこの本の褒め方を思いつかなかったんだな」と感じてしまう。たとえ本当にそう思っていても、「著者最高傑作」と書くことでむしろ伝えたいことが伝わらない可能性がある、とするならば、「褒める」という行為も諸刃の剣でしかない。「褒めるという行為」や「自分が選択した褒め方」が、その本の魅力を引き出しているか、あるいはうまく伝えているのか、ということは、自戒も込めつつ、常に意識し続けなければならないと思っている。

 最後に。本書を読むべきかどうか悩んでいる人は、まず巻末のあとがき(というか、「『拝啓、本が売れません』をここまで読んでくださった方へ」という文章)を読んで欲しい。「本」というものと著者がどう向き合っているのか、そして多くの人にどう向き合って欲しいのかということが短く綴られていて、本書全体における著者のスタンスそのものの表明でもあるようにも感じられる文章だった。

(「さわや書店」長江貴士)

3月30日に額賀澪さんトーク&サイン会(三省堂書店神保町本店)開催。 特別ゲストに小説家の佐藤青南さんをお迎えします!

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額賀 澪

ぬかが みお

1990年生まれ。茨城県行方市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。

2015年に『屋上のウインドノーツ』(「ウインドノーツ」を改題)で第22回松本清張賞を、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。2016年、『タスキメシ』が第62回青少年読書感想文全国コンクール高等学校部門課題図書に。その他の既刊に『さよならクリームソーダ』『君はレフティ』『潮風エスケープ』『ウズタマ』『完パケ!』『拝啓、本が売れません』がある。最新作『風に恋う』好評発売中。



額賀澪公式サイト(http://nukaga-mio.work


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