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行商人に憧れた25歳。あえて傷だらけの「ロバ」を相棒にした理由

旅の相棒が決まる

■あえて獰猛な、暴れロバを選ぶ

 さて、残るは一頭目の攻撃的なロバと四頭目の名前が付いているロバだ。馬力は両者とも十分。値段は一頭目が二万三千円で、四頭目が一万二千円。性格は一頭目が攻撃で、四頭目が従順。こうして比較してみると迷う理由なんてないだろう。四頭目で決まりだ。

 そこまで考えたにもかかわらず、おれは四頭目を買う決心がつかなかった。

 ……おれの思い過ごしかもしれないけど、一頭目のロバは、もしかしたら虐待に近いことをされているのかもしれない。モロッコでのロバの立場はとても弱い。先述の通り、道具同然だ。おれはモロッコに来て以来、隣人に家畜を毒殺されたという話を既に何度か聞いていた。信じられないことに、気に入らない隣人の飼っている家畜を毒殺するというのは、モロッコでは普通に起こりうることのようだ。特にロバは鳴き声がうるさいので、標的にされやすい。

 実際、モロッコに住んでいる知人の飼っていたロバも、知人が数日家を空けた際に跡形もなく「処分」されてしまったらしい。病気で死んだので処分したというのが隣人の言い分のようだったが、飼い主が家を空けてからたったの数日で発病し、死に至るだろうか。

 しかもそれを飼い主に伝えずに、隣人が勝手に処分するというのも納得がいかない。確証はないが、かなり疑わしい状況だ。モロッコにおいて、ロバの命はそれほどに軽く扱われているのが現状のようだった。

 おれが買い取らなかった場合、一頭目のロバは今後ずっと道具として扱われ、ちょっとしたことで、殴られたり殺されたりするのかもしれない。その点四頭目のロバには名前があり、日本のペットに近い扱いがされているので比較的安心できると言えるだろう。そう考えると、このティズギ村でおれがなすべきことは、一頭目のロバを買うことなんじゃないかと思った。攻撃的なので四頭目より扱いにくく、値段も倍近くする一頭目を買うなんて、正直バカとしか思えない。でも、そうすべきだと思ってしまったんだから仕方がない。

 よし、一頭目のロバを買おう! そう決断し、すぐに飼い主の所へ行ってロバを購入。

 値引き交渉をしたので三千円ほど値引かれ、最終的な価格は約二万円だった。こうして、臆病で攻撃的な、遠くから見ると馬と見まがうほどに大きなロバが、おれの相棒となった。

<『-リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(電子版もあり)>

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春間 豪太郎

はるま ごうたろう

1990年生まれ。冒険家。



5chでのスレッド「行商人やキャラバンに憧れたからモロッコでロバと一緒に放浪の旅を始めたバカだけど」などが話題となり、まとめ掲示板で首位の人気となる。



主に発展途上国で動物と共に歩くスタイルの冒険を行っている。



行方不明になった友達を探しにフィリピンへ行ったことが、海外や冒険に興味を持つ最初のきっかけになる。



大学を休学して行った海外ではスラム街に入り浸り、ヒッチハイクや野宿などを繰り返して危機管理能力を高める。国内では歌舞伎町や難波、祇園で客引き系の仕事をして交渉スキルを磨く。



護身用に、師と仰ぐ人物からキックボクシングを教わる。また、フィリピンのナイフ術も身に付ける。国内外の様々な場所へ赴き、これからも動物たちと世界を冒険していく予定。



ツィッターアカウント:@go_haruma


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  • 春間 豪太郎
  • 2018.03.20