すべての保守言論人が出直すべき理由とは「吟味する精神の欠如」【平坂純一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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すべての保守言論人が出直すべき理由とは「吟味する精神の欠如」【平坂純一】

「吟味の人 文芸評論家・福田和也」を語る


日本の保守論壇がまるで一部のネトウヨ言論人に乗っ取られた状況になって久しい。何故ここまで保守論壇は劣化し、衰退してしまったのか?作家・平坂純一氏はその原因を、「吟味する精神の欠如」と喝破する。あらゆる書物はもちろん、世間に存在し続けているさまざまな関係性について、私たちはしっかり観察し、感受し、考察しているといえるだろうか。あまりに忙しなく情報の渦に絡めとられ、まさに吟味することができていないのではないか。初選集『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』(KKベストセラーズ)の刊行に寄せて、そんな「吟味の人 文芸評論家・福田和也」について語る。


 

福田和也氏

 

「福田和也氏は、平成期における煮ても焼いても食えない老師 石原慎太郎・立川談志・西部邁をこぞって惚れさせた、また、東浩紀が“書き過ぎた人”と舌を巻いた、日本の文芸批評家である」

 

 こう奇を衒わなければならない自分と時代が悔しい。僕は37歳、「文芸評論家の福田和也」に鋭く反応する人々の多くは、僕よりも少々先輩である。思想と歴史、文学と政治、日本と西洋、上位から下位の概念を呑み込んだこの博覧強記、文芸界の大人の相貌を伝えるのに、江藤淳から説明しても今の人間の教養では判らないらしい。僕は四流私立大学にだらだら籍を置いただけで大学教育もロクにありはしないが、折りに触れ、氏の言論には親しんできた。そして、福田氏にお目にかかったことはないものの、周回遅れで西部邁の弟弟子でもある。

 

西部邁氏

 

 立川談志家元が「最後は福田が持っていく」と啖呵切ったのは、2009年の「談志の格言」(TOKYO MX)だった。家元は情愛と敬意を込めて、元気なうちに告げる遺言のように「いずれ天下を獲る。書いているものに人間が見える」と伝え、「とても大事な人ですよ」と付言してもいた。師・西部邁との関わりは『国家と戦争』、『テロルと国家』(いずれも飛鳥新書)や柄谷・浅田とのハイエク論争(雑誌「批評空間」)あたりを掘られるがよかろう。

 

 僕の福田和也初体験は石原慎太郎氏との対談から、「満州国だけでも存続していれば、日本語の話者は今の2倍、僕ら物書きも倍、儲かったはずだ」と豪放磊落に語り合っていた。この話を教養がある風の高校の学友に教えたら、ただただ戦後民主主義的なザコな怯え方をして閉口した。少なくとも、「ある種の政治的意図を持った“お上品な”保守論壇」とは別の次元にある人なのが判らないのかい? そう思った時点で、無意識的に福田和也の思想にアンガージュしていたのかもしれない。

 

 福田和也的「挑戦的な知性」と「世間様とのズレ方」を楽しめないバカが強烈に増殖した。おそらく、小泉純一郎のワンフレーズ・ポリティクスによって政治が死に、大衆主義が跋扈(ばっこ)した“あの時代の所為だろう。東浩紀が「現実がポストモダン化した」と嘯きつつ、「書き過ぎる人」と福田氏を評したのが2002年。貧すれば鈍する、人が知に触れ学ぶことには経済のそれのみならず余裕を要する。「小説を読む=真面目」と聴いて噴飯する者も減ったようだ。この嘆きは今やスマホとワイヤレス・イヤホンで人心から掻き消されているようだ。僕は令和の今更、寺山修司の映画『書を捨てよ、町へ出よう』的に映画館から出た客を詰る男の気分になる。

 

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