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「イチローさんへの視線は慕うというより…」田澤純一がみたマーリンズ

日本人メジャーリーガー歴代3位の登板数。田澤純一独占インタビュー前篇

■14年ぶりのバッターボックスで見た94マイル

――ナ・リーグということで、田澤さんにもさまざまな変化がありました。編集部としてはバッターボックスに立つ姿を見られたのは新鮮でした。(編集部注:2017年9月23日、対ダイヤモンドバックス)

田澤 はははは。そうですね。ENEOSはDH制を採用してたから試合の打席に立ったのは高校3年生以来か……。そもそもあの打席も「交代だ」って言われたんですよ。ただ試合が打撃戦のシーソーゲームになっていて「(終盤に使える)代打がいなくなってしまうから行ってくれ」と。チャンスになったらそれもなかったんですけど……。正直「まじかよ!」とは思いましたね(笑)。

――結果は、2ボール2ストライクからの6球目をショートゴロ。初めて「打者目線」で見るメジャーリーガーのボールはいかがでしたか? 打った球は93マイル(150キロ)のストレートでした。

田澤 いや、打席では速いとかを感じるよりも、そもそも「あれ、どうやって構えてたっけ? バッティングってどんなもんだっけ」というところから始まっているので。

――たしかに14年も前ですものね……。

田澤 みんな打席に入るまでや、一球一球の間のルーティンとかがあるじゃないですか。僕にはそれもないから、一球ごと、この間に何すればいいの! みたいな(笑)。すごく違和感がありました。マエケン(前田健太)がいきなりホームランを打ってたじゃないですか(MLB初登板戦の第二打席でホームラン)。バッティングがいいのは知ってましたけど、あそこで打つなんて改めてすごいなと思いましたね。

――ということは打席ではわりと混乱を?

田澤 いや、大丈夫かなという感覚はあったんですけど、冷静に見れたところもあって。ベンチからは「三球三振してこい」と言われて送り出されたんですね。それで初球のストレートを見逃したときに94マイル(151キロ)って表示が出てて「こんな球来るか?」という気持ちと、「意外と真っ直ぐだったら当たるんじゃないか?」という気持ちがあったんです。前者の気持ちは当然で150キロとか打席で見たことないですからね(笑)。(高校時代に対戦した)涌井(秀章)とかくらいですか。

 

 一方で、もしかしたらというのもあって1ボール1ストライクからの3球目の真っ直ぐを振ってみたらファールになった。そしたらベンチが「おー、当たったぞ!」みたいに盛り上がってて。次の真っ直ぐもファールで、追い込まれてからワンバウンドのスライダーも見逃せて「あれ、オレ意外と見れてるぞ」みたいな感覚にはなりましたね(笑)。

 結局ショートゴロでふつうの凡打でしたけど、ベンチに戻ったら「よかったぞ!」ってひと盛り上がりしてくれたのでチームの雰囲気に貢献できてよかったな、と。打席中は「何に盛り上がってんだ」と思ってましたけどね(笑)。

――ファン目線でも貴重なシーンでした。とはいえ、シーズンを通してみると、チーム的にも田澤さん的にも満足いく成績ではなかったと思います。特に昨年のインタビューでは期する思いを語られていたので、悔しかったのではと思いますが何が悪かったのでしょう。

田澤 うーん、そうですね。怪我もありましたし、全体的に投球のバランスが良くなかった。特にストライクゾーンで勝負せざるを得ないケース、追い込んでもそこからボール球を振ってもらえずカウントが不利になって、結局ストライクゾーンで勝負して打たれる、というようなことが多かったです。

 追い込んでからワンバウンドさせる変化球を振ってもらえれば楽になるケースもそれができなかった。自分としてはイメージに近い、悪くない変化球だったのに「ビクっ」としたくらいで終わってしまうとか。かみ合わないな、という感覚はすごく強かったです。

――ある程度、理想的な配球、軌道でも結果が出ない。

田澤 そんな感覚ですね。イメージよりも前で落ちてるのかなと思ってキャッチャーに聞いたりしても「ボールは悪くなかったけど打たれたよね」と言われて……失投して打たれたなら納得がいくんですけど、やるべきことをやって打たれてしまうとなかなか次の手がみつからない。

 

 結局、調子がいいときって真ん中に投げていても打ち取れたりするんですよ。でもその一方でうまくいかないときというのは、いろんなことを試してみてもうまくはまらない。その感覚が自分を追い込んでしまったところがあったと思います。

――なるほど。

田澤 ピッチングコーチのニエベスはボストン時代から一緒でしたから僕のことを理解してくれている存在でした。そんな彼とビデオルームでフォームを見たり、配球を再考したりしても「すごい悪いわけじゃないけど打たれたな」とかそういうループになっていて。「悪くなく」ても結果としてアウトを取らなければ意味がないですから、自分の引き出しがなかったな、と思いましたね。

――9年目で分析されていた、とか。

田澤 もちろんそれもあると思うんですけど、それはこちらだって分析してるのでお互いさまです。その中でどう戦うかで勝負をしてるわけですから、そこは完全に負けたかな、と思いますね。
【後篇「渡米10年目。歴代3位に躍り出たマーリンズ・田澤の向上心」】

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田澤 純一

たざわ じゅんいち

マイアミ・マーリンズ

1986年6月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。2008年、社会人野球エネオス野球部に所属し、都市対抗野球大会で全試合に登板。4勝をあげて橋戸賞を受賞。この年にメジャーリーグボストン・レッドソックスと3年契約。以降、中継ぎ、クローザーとして8年間で2013年のワールドシリーズ制覇などに貢献、302試合に登板し17勝20敗4セーブ。2017年シーズンからマイアミ・マーリンズに所属する。


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