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国宝・文化財はどう修理している? 大きいものは5年以上かけて

美術館の“裏側”公開ツアー【国宝・文化財修理 篇】

100年先を見据えて作品を修理し、後世に伝える

 展覧会に展示される作品の中でも、とりわけ日本の文化財(美術工芸品)は紙や絹といった脆弱な素材で作られたものが多い。それらは定期的な修理を経ることで今日まで守り伝えられているが、そういった絵画や書跡の保存修理を行う修理技術者は“装潢師”と呼ばれる。
「装潢師の仕事は、いわば文化財にとってのお医者さん。どこが傷んでいるのか声を発することができない文化財を調べて修理を施し、状態を維持していく仕事です」。
 そう話すのは、120余年にわたって国宝や重要文化財を中心とした文化財の修理に携わる岡墨光堂の岡岩太郎さんだ。 

 美術館や博物館、寺院などから持ち込まれた文化財の保存修理作業は、まずは目視した後に拡大顕微鏡やX線写真撮影、赤外線写真撮影で調べることから始まる。
「作業の様子を例えるなら入院患者への問診や検査作業。主担当1人を中心に3〜5人が一つのチームになり、傷みや汚れの原因を徹底的に調べていきます。その間は担当者がただひたすら見るという時間が続きます。長ければ2〜3カ月はかかりますが、作業を急いでしまうと大事なことを見落としかねませんし、予定調和で作業を進めてもいい結果にはなりません」。
 その後、検査が終われば修理方針を立て、修理となるが、最も骨身を削るのが裏打紙を剥がす作業だ。日本の絵画には裏から数層の和紙で補強する裏打ちが施されていて、糊を緩めながら剥がすのだが、これが実に緻密な作業になる。
「ピンセットでほぐすように剥がすのですが、1日で20㎝角がせいぜい。また、欠損部分の補修はもともとの材質や劣化具合に合わせた補修紙や絹を新たに作り、針の目ほどの小さなものまで埋めていくという精緻な作業が求められます。装潢師の技術は一切マニュアル化はされていません。文化財は個体差がありますから、修理は同じことが繰り返されないのです。装潢師は10年かかって一人前といわれるのは、経験と技術の積み重ねが必要だからなんです」。

 こういった一連の作業工程を経て文化財修理が完了するが、絵画や書で1年半〜2年、大きなものなら5年以上と、修理にかかる期間は年単位になるそうだ。
「昔の絵画や書が展覧会で見られるのは、先人たちがきちんと残してきてくれたおかげ。私たちはそのバトンを次世代に伝えていくのが使命だと思っています。文化財修理の適正なペースは50〜100年に一回といわれているので、100年後の人たちに『21 世紀の人はようがんばったな』と思ってもらえる仕事をしていきたいです」。

雑誌『一個人』2018年3月号より構成〉

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