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連邦議会でもソ連のスパイ工作が追及されていた

スターリンに翻弄された歴史を解明せよ インテリジェンス・ヒストリー⑥

■アメリカインテリジェンス、敗北の原因

 一方、下院に設置されたダイス委員会はその後、本書でも取り上げている国
務省幹部アルジャー・ヒスらによるソ連の工作活動に関して頻繁に公聴会を開
催し、一九四八年八月二十二日、ソ連の工作員に関して、次のような中間報告
書を公表しています。

①第二次世界大戦中および戦後において政府機関内においてアメリカ共産党並びにその機関と協力し、ソ連に情報を提供したスパイ活動が存在した。
②このスパイ事件の徹底的究明のため調査続行の必要がある。
③不忠誠政府職員の追放に関して本委員会は、政府機関(当時はトルーマン民主党政権)と十分協力しつつある。
④検事総長に対してこのスパイ事件に関する公聴会の全記録を提供しており、このスパイ事件に対する責任は専ら司法省側にある。
⑤いままでの調査並びに公聴会の結果により、スパイ活動及び不忠誠な目的を隠蔽しようとする共産主義者の巧妙な戦術に対して新規立法措置が必要である。

 この下院の動きは上院にも波及し、一九五〇年二月二十三日、上院外交委員会に、この共産主義の問題を扱う小委員会が設置されました。

親ソ的発言を繰り返したオーウェン・ラティモア

 民主党のタイディングズ下院議員が委員長を務めたことから、通称タイディングズ委員会と呼ばれたこの小委員会において共和党のジョン・マッカーシー上院議員が、「アメリカの極東政策の主要な決定者の一人」であったオーウェン・ラティモアを「共産党のシンパ」だと非難し、大きな政治問題となりました。

 こうした連邦議会における記録やヴェノナ文書の公開を踏まえ、ソ連とルーズヴェルト民主党政権の責任を追及する保守派のリーダーの一人こそ、前にご紹介した『スターリンの秘密工作員』の著者の一人、エヴァンズです。

 この本は、浩瀚【こうかん】な史料に基づいて、スターリンが強力なインテリジェンス(情報・諜報)工作でアメリカをいかに翻弄したか、その全体像を描き出しています。

ヤルタ会談

 特に、それらの工作の集大成がヤルタ会談であるととらえ、ヤルタ会談で実入際にどんなことが起きていたのかを、これまで公刊されてこなかった当事者の日記などの記録や、一九四〇年代の終わりから連邦議会で行われてきた調査や証人喚問の議事録や報告書などをもとに掘り下げています。

 そして、ヤルタ会談に至ったアメリカのインテリジェンスの敗北の原因を、歴史をさかのぼって分析しています。

 今や相当な量に達したデータが示しているように、強力で邪な敵が、一九四
〇年代半ばまでにアメリカ政府(およびその他の影響力のあるポスト)に無数
の秘密工作員とシンパを配置することに成功した。これら工作員たちは政府の
中でソ連の国家目的に奉仕し、アメリカの国益を裏切ることができた。

 アメリカ国民がおめでたくもこんな危険を全く知らずにいた一方で、かなり
の数の政府高官たちは、あるいは無関心を決め込み、あるいは加担していた。
我が国の治安と安全にとってこれ以上に警戒を要する事態は想像するのも難し
い。
(『スターリンの秘密工作員』p.5, )

 アメリカはソ連の秘密工作員たちによって内側から散々に食い荒らされ、国を守るべき指導者たちはそれに手を貸したり、見て見ぬふりをしたりしていた──エヴァンズらには、アメリカがまさに亡国の危機だったのに、その歴史が明らかにされてこなかったことへの切実な危機感があるのです。これは日本の危機でもありました。スターリンに翻弄された歴史の解明は、日本にとっても重要な課題なのです。

『日本は誰と戦ったのか』より抜粋)

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江崎 道朗

えざき みちお

評論家。専門は安全保障、インテリジェンス、近現代史研究。



1962年生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフなどを経て、2016年夏から本格的に評論活動を開始。月刊正論、月刊WiLL、月刊Voice、日刊SPA!などに論文多数。



著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社新書)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)ほか多数。



 


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