【造反有理のいちご白書】1969年1月19日 全共闘が占拠する東大安田講堂が落城。企業戦士としてバブルを駆け抜けた団塊の世代は、いま、何を思うのか |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【造反有理のいちご白書】1969年1月19日 全共闘が占拠する東大安田講堂が落城。企業戦士としてバブルを駆け抜けた団塊の世代は、いま、何を思うのか

平民ジャパン「今日は何の日」:13ニャンめ

◼︎「分かり合えない」世代間闘争としての全共闘運動

中央大学校庭で集会を開く全学連の学生たち(写真:Mountainlife/CC-BY-3.0)

 

 全共闘運動は敗戦占領期から続く世代間闘争の延長だった。

 総理大臣、警視総監は①明治生まれ、戦時中の官僚だった。
 東大執行部の教授たちは②男子200万人が戦争で死んだ戦中派大正生まれだった。
 機動隊現場指揮官たちは③昭和一桁(別名小国民)~焼け跡闇市派世代〜だった。
 全共闘の学生と若い機動隊員たちは④戦後ベビーブームに生まれた団塊の世代だった。

 分かり合えない4つの世代が参加したバトルロワイアルは、それが教育と学問の頂点で起きたからこそ、大事な問題を全世代に問うチャンスもあった。

 東大紛争は占領軍が作った医学部インターン制度と無給医への反発から始まり、大学側による問答無用の学生処分によって紛争化した。 
 日大紛争は裏口入学、贈収賄、脱税、34億円の使途不明金という大学の汚職腐敗の告発だった。

 イデオロギーではなく、まっとうな抗議行動から始まった。

 「生きて虜囚の辱めを受けず」と言っておきながら、手のひらを返してアメリカに懐いた戦中世代を告発する闘争だった。アメリカはベトナムで大量殺戮の真っ最中だった。そのアメリカを唯々諾々と支える属国日本を恥じる、義憤と自己否定の表現だった。精神的支柱は純日本的で浪花節だった。愛国心と原罪意識と未熟な思想が混在していた。

 翌年自決する三島由紀夫は「東大問題は、戦後20年の日本知識人の虚栄に満ちたふしだらで怠惰な精神に、決着をつけた出来事だ」と讃えた。二十歳前後の学生たちは戦争末期のごとく勇ましい言葉を使ったが、プラスチックのヘルメット、角材、竹竿に括り付けた旗という頼りない姿で、完全武装の機動隊に踏みつぶされた。

 1989年の中国「天安門事件」2020年の香港と本質は同じだった。
 しかし、1969年の「安田講堂事件」は、1936年の「二・二六事件」の顛末のように、どこかで「謝れば」原隊復帰の「赦し」があったように、ゲバ棒から就活へと「自然」ななりゆきで忘却されていく。

 それは戦前戦中を「転向」で生き延びた共産党員たちとも通じる。 
 マッカーサーに個人的なお願いごとの手紙を書いた国粋主義者たちとも通じる。

 これが「日本のいいところ」だ。
 そして日本は翌日から平常運航に復旧する。
 本日もまた晴天なり。
 何ごともなかったかのように身過ぎ世過ぎを続ける。

 研修医の劣悪な環境は固定され今に至る。日大はカネにまつわる黒い噂が絶えない。アメリカはベトナム戦争に懲りず、ずっと世界中で戦争を続けている。

 

◼︎結局、日本は何も学べなかった・・・

玉音放送を聞く日本国民(8月15日12時)。76年前に流した涙もすぐ乾いて「♫カムカム・エブリバディ」の直立不動で「ハロー!マ元帥‼️」。どんだけ〜!(写真:パブリック・ドメイン)

 

 しかし、権威の象徴を巡る攻防戦は、他国のケースと違わず、歴史のターニングポイントとなった。問題も事件も、なかったことにされた。
 無責任が「お家芸」のメディアは踵を返して、口を拭った。それからうん十年、日本は徐々に思考を止め、深刻な問題を先送りし続けた。

 対抗軸を喪失し、言語を劣化させた国は、バカが増える宿命にある。

 ヘイトも排外主義も陰謀論も、湧くに任せるしかない。それが社会制度の整備を遅らせ、外交と国益を毀損する。ダメージの大きさは自覚されない。元号が変わっても、新しい時代は幕を開けない。残念ながら、オリンピックも来ない。

  あれから52年が経ち、いまや東大にかつての輝きは無い。依然、国内偏差値ランキングトップの座にはある。平民ジャパンが大好きな格付けやクイズ番組のために、まだ東大はある。しかし、世界大学ランキングでは24位(2021年・英クアクアレリ・シモンズ調査)~36位(2021年・英誌タイムズハイアーエデュケーション調査)で、シンガポール、中国、香港の大学に及ばない。国家公務員総合職合格者は17%まで落ちた。総予算は2566億円(2019年)で、日大の2698(2016年)億に劣る。東大の弱体化で、その下にぶら下がるすべての学校のレベルも下がる。日本全体が下がる。

 ローカル大学に、世界中から優秀な学生が集まることはない。

 国家公務員総合職合格者は17%まで落ちた。総予算は2566億円(2019年)で、日大の26982016年)億に劣る。東大の弱体化で、その下にぶら下がるすべての学校のレベルも下がる。日本全体が下がる。

 結局、日本は何も学んでいない。

 ごまかしながら、ここまで来た。敗戦も、全共闘運動も、一個の事件、いっときの社会現象として片づけ、忘れた報いだ。わだつみの声が聞かれなかったように、学生たちの問いかけもかき消された。「本当は私は反対だったが、場の空気が」「仮に何か言っても無駄だった」「応援しています、陰ながら」「みんなが言っているから、私はそうは思わないけど」こういう陰湿な調子のよさは、今に始まったとではない。

 大本営参謀たちの無責任と処世術、アメリカの下僕となって私欲を満たす戦後指導者の品性が、姿かたちを変えるタチの悪いウイルスのごとく、あちこちで感染拡大している。

 最長政権をまんまと引き継いだ現政権は、コロナで適応障害を露呈しながら、迷走を続ける。責任の所在をあいまいにしたまま、場当たり的な政策を小出しにする。兵站無視、戦力逐次投入、精神論重視で悪名高き、ガダルカナル、インパール作戦だ。

 医療においては、これから大規模なトリアージ(優先順位付け、またの名を、命の選別)が始まる。信用に値しないが、NHKの世論調査では86%の日本人が「個人の自由の制限」にOKを出している。気は確かか、平民ジャパン。

次のページコドモのまま年をとっていくオトナが蔓延する国

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猫島 カツヲ

ねこじま かつを

ストリート系社会評論家。ハーバード大学大学院卒業。

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