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児童福祉と少年司法の狭間で苦しむ子ども達

「セックスワークサミット2017秋 」第3部レポート 第2回

●福祉を受けるより、夜の街や少年院を選ぶ子どもたち

 少年院というと怖そうで近寄りがたいイメージを持たれる方がいると思いますが、少年にとっては少年院がはじめて安心・安全を感じられる場所になることもあります。ある少年は、親からも見捨てられて、福祉にも馴染まずに転々として「大人はみんな敵だ」とよく言っていました。そんな少年が、少年院ではじめて24時間体制で自分が見守ってもらえる、大切にされていることを実感して安心・安全を感じるようになりました。そうして立ち直っていく少年もいます。

 少年院は通常であればある程度プログラムが進んだら、保護者に連絡を取って帰る場所を調整した上で、出院することになります。しかし、保護者が受け入れ拒否をするなどして帰る場所が一向に見つからないため、既に出院してもいい状態であるにもかかわらず、ただ時間だけが過ぎていくような少年もいます。現行の福祉制度の枠組みでは少年のニーズや課題に対応しきれないため、少年院が最後のセーフティネットとなって少年の支援に苦慮しているというのが少年司法の現状です。地域社会の中での福祉の力量不足、社会資源の不足を痛感します。

 大抵の少年は、さすがに「少年院に行くのは嫌だ」と言います。行かなくて済むように、何とかこういう方法で頑張ろうねと提案すると、その提案に乗ってくれる場合が多いです。しかし、中には「面倒くさいので、そこまで縛られた生活するくらいなら、一年少年院に入っていたほうがマシです」と言われることもある。そこまで信用されていない地域や福祉とは一体何なのか、と頭を打たれた思いでした。

 家庭での悩みを抱える思春期の子どもたちの中には、家出をして深夜徘徊するようになる子どもがいます。そして、どこかで警察に補導されて、『虞犯』として児童相談所に来る。児童相談所の調整の結果、家庭に戻る子もいれば、施設に行く子もいます。

 一方で、こうした福祉の枠組みによる支援を、望まない子もいます。ここが児童福祉の悩みどころです。児童福祉は、子ども本人たちにとってはある種のお節介、パターナリズムです。必ずしも子ども自身が支援を望んでいるわけではない。いくら「このほうがあなたにとっていいから」と言っても、本人たちは「そんな自由の無い生活はイヤだ」「自由に夜の街で生きていくほうがいい」と拒絶します。

 もちろん、福祉側も説得を重ねますが、強制はできない。児童相談所で一時保護したとしても、あくまで福祉施設なので、部屋に鍵をかけて拘束することまではできない。そして、そうした生活を嫌う子ども達は、結局施設を出ていってしまい、行方が分からなくなる。そしてまたどこかで警察に補導されて戻ってくる・・・の繰り返し。

 私は、少年院は必ずしも子ども本人にとって悪いことではないと思っているので、少年司法に馴染むのであればその方向での支援も積極的に検討すべきだと考えます。ですが、こうした子ども達の場合には少年司法にも馴染まないため、結局、色々な公的機関を転々とたらいまわしにされることになり、そうした中で子ども達の貴重な時間は奪われ心はどんどん疲れ荒んでいき、未来への希望や大人に対する信用はなくなっていく。そうこうする中で、精神を病んで入院する子もいれば、犯罪傾向が進んでいよいよ犯罪少年として家庭裁判所のお世話になる子もいる。そして、性風俗で働くようになる子もいます。

 児童福祉と少年司法は、一見接続しているように見えて、実は大きな狭間があります。

 特に虞犯傾向のある少女たちは、この狭間に陥りやすいと思います。

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「セックスワーク・サミット2017冬 「つながる風俗女子」+シンポジウム「みんなでつくる『適正風俗』」(主催:一般社団法人ホワイトハンズ)が、2017年12月3日(日)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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