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うしでんしゃのミニトリップ

2021年の丑年にちなんで「うしでんしゃ」でミニ散策

■「うしでんしゃ」という楽しい車両に乗ってみる

こどもの国線を走る「うしでんしゃ」

 2021年は丑年。というわけで牛に因んだ鉄道の話題はないものかとあれこれ思いめぐらせていたら、「うしでんしゃ」という楽しい車両が走っていることに気づいた。まだ乗ったことがなかったので、さっそく乗りに行ってみることにした。

「うしでんしゃ」が走っているのは、東急田園都市線とJR横浜線が接続する長津田駅(神奈川県横浜市緑区)を起点とするこどもの国線だ。都心の渋谷駅から田園都市線の急行電車に乗ること30数分で長津田駅に到着する。ホームからエスカレータでコンコースに上がり、こどもの国線乗り換えの案内板に従って進むと、改札口を出てしまった。こどもの国線は、東急の路線図に乗っているので、改札を出て乗り換えるのは妙である。そのままこどもの国線の案内表示に従って階段を降りると、再び改札口に入ることなくこどもの国線ホームが現れるのだ。もう一度、長津田駅の構内をつぶさに見てみると、JR横浜線からの乗り換えやバスや徒歩で直接長津田駅にやって来る人は改札口に入ることなく、こどもの国線に乗ることとなる。きっぷを買う必要はないのだろうか?(あとで気づいたのだが、階段を下りる手前の脇にこどもの国線用の自動券売機がひっそりと存在していた)。

長津田駅のこどもの国線乗り場案内

 これには訳があって、こどもの国線は、みなとみらい線と同じく横浜高速鉄道の所有であるが、線路と車両を保有するだけで(第三種鉄道事業者)、実際の電車の運行は東急が行っている(第二種鉄道事業者)という複雑な事情があるからだ。したがって、田園都市線とは運賃の通算は行われない仕組みになっている。そして、こどもの国線の駅は恩田駅とこどもの国駅だけなので、長津田駅から乗車した場合は、下車駅の自動改札を通れば運賃が引き落とされる仕組みだ(ICカードを持っていない人には精算機がある)。ちょうどワンマン運転の路線バスの運賃収受とやり方が似ている。

 ホームに降りると、すでに「うしでんしゃ」が入線していた。2両編成の通勤型車両でY000系と言い横浜高速鉄道の所属なので東急電鉄のロゴとは異なった図案が車体にも付いている。そんな専門的なことよりも、先頭の窓下に大きく描かれた牛のコミカルなイラストが多くの人の目に留まることだろう。何とも楽しい雰囲気に満ちている。側面も白と黒の色どりでホルスタインを図案化したものだ。

 牛は、こどもの国の中にある牧場で飼われている乳牛をイメージしている。この牧場で生産した牛乳でつくったソフトクリームはこどもの国の名物で人気がある。窓下には子供でも読めるようにひらがなで「うしでんしゃ」の表記が1両につき2か所書いてあり、こどもの国に行く幼児達の気分は早くも高まることであろう。

 車内に入ると、園内の牧場に入り込んだと錯覚しそうな牧場のイラストがあたり一面に描かれている。ドアを始め、運転台後ろの壁面や荷だなの上、さらには床には牛が歩き回ったかのような足跡も描いてある。この日は、学校がすでに始まっている平日の午前中だったので、親子連れの姿はなく、沿線の大学に向かう学生や住人と思われる大人が散見される程度で閑散としていた。

うしでんしゃ車内、その1

うしでんしゃ車内、その2

 昼間はほぼ20分おきの運転で、電車は定時に長津田駅のホームを離れた。すぐに右に大きくカーブ。ゆっくりと住宅地の間を単線で進み、やがて恩田川を渡ると、左右は田園地帯が広がる。線路からかなり離れた小高い丘の上には一戸建て住宅が立ち並ぶ。半世紀ほど前の開業当初は純然たるこどもの国アクセス路線だったのに、いつしか通勤路線にと変身したのも頷ける。

 通勤路線にしてはやや長い駅間距離をひた走ると、右手には東急の車両工場が見えてきた。東横線や田園都市線でよく見かける東急の車両が並んでいる。もう10年ほど前になるけれど、この長津田車両工場を見学するツアーを取材したことがあり、クレーンの車両吊り上げなどを間近に見る機会があった。そのときは、田園都市線の梶が谷駅から臨時の団体専用電車に乗ったのだが、普段はこどもの国線から出ることのない2両編成のY000系、しかもY001+Y011という「うしでんしゃ」のラッピング前の編成だった。今回、こどもの国線を訪れるのはその時以来である。

うしでんしゃの車窓から 長津田⇒恩田

恩田駅ホーム

 車両工場をかすめて恩田駅に到着。ここまで4分かかった。単線のこどもの国線にあって唯一の中間駅で電車のすれ違いができる駅だ。朝夕のラッシュ時や行楽シーズンの臨時電車が増発されるときをのぞけば行き違いはない。今回もすれ違いはなく、すぐにドアが閉まって発車となった。

長津田車両工場での車体吊り上げ

オリジナル塗装時代の「うしでんしゃ」車両

 恩田川の支流である奈良川に沿って進む。川と線路の間には空き地があり、川沿いに延びる狭い道からは電車の写真が撮れそうだ。帰りに確認しよう。

 左手に、「ようこそこどもの国へ」の看板が見えるほかは、住宅のまにまに畑が広がるのみで、行楽地のような華やかさはあまり感じられない。奈良山公園の小高い丘が左手に見えると、それを避けるように緩やかに右にカーブし、やがて右手にこどもの国の来訪者用の駐車場が現れると、ゆっくりとスピードを落としこどもの国駅に到着する。左手にホームが一面あるだけのささやかな終着駅。7分のミニトリップは終わりだ。

住宅地を走る「うしでんしゃ」 恩田⇒こどもの国

 まだお昼前だったせいか、降りる人と入れ替わるように多くの勤め人風の大人や学生が乗り込んでくる。こどもの国線は通勤路線だったと再認識した次第である。

 線路が途切れる車止めの左手に改札口があり、ここでICカードをタッチすると、運賃の157円が差し引かれる。小さな駅舎は、とんがり屋根の可愛らしいもの。駅名の脇には、東急電鉄と横浜高速鉄道の文字とロゴが並んでいた。

可愛らしいこどもの国駅の駅舎

こどもの国入口

 こどもの国のゲートへ向かう並木道があったけれど、この日はひとりだったので、そちらへ向かうことはしない。駐車場から長津田駅へ戻る電車を見送ったあとは、線路に沿うようにのんびり散策しつつ、途中で長津田駅とこどもの国駅を往復する「うしでんしゃ」を3回撮影した。電車を待ったりしたので30分以上かけて恩田駅に到着。そこから長津田行きの「うしでんしゃ」に乗って、ミニ散策を終えたのである。

*この取材は、緊急事態宣言再発令前に行いました。

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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