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【車いすのダイバー】有名芸能人がアンバサダーをつとめる電動車いすキャンペーンに異議あり!《後編》

寝たきりゼロの老後をすごす方法/その五

■吉野なら、キャンペーンをこう展開する!

 では、もし、この私が「電動車いすのプロジェクト」を企画したらどうなるか。

(1) アンバサダー、もしくは広報担当者には、実際に電動車いすを使って、生活を送っている方を選ぶ。

 その方の口から、電動車いすを使って、どんなに外出がしやすくなったか。そして、操作を習得するまでのことや、外出中に出会った良いこと、少し困ったことなどの話をプレゼンしてもらって、報道して頂く。

 (2) 高齢者のユーザーを何人かと、介護やリハの専門家、道路や建物のバリアフリーの関係の専門家を講師にして、シンポジウムを開く。

 たまたま知り合った電動車いすユーザーの先輩から、「急に雨が降ってきた時のために、ビニール傘の一番大きいのを買っておいて、杖と一緒に後ろのボックスにさして置くと良い」
「透明のビニール傘は、視界が広くて、車いすの運転には良い」とか、「寒さ対策に膝掛けを用意すると良い」などの情報を教えていただいて、すごく役に立ちました。

 実際、電動車いすを使った生活の中で、自力で困ったことを解決してきた方の経験は、非常に参考になります。

 (3) ケアマネージャー、介護やリハビリの関係者向けの勉強会を積極的に行ない、講師としてメーカーの方、電動車いすの高齢者ユーザーを招く。

 電動車いすを借りた直後、業者の方が使い方の指導をしてくれました。彼の言う通り、操作に慣れるまでは最低のスピードにして、とにかくあちこち走ってみることです。

 5段階にスピードが切り替えられるが、その最低のレベル「1」で走る分には、万が一ぶつかったりしても、大きな事故にならない。慣れて自信がつくまでは、とにかくゆっくり走りましょう、とのこと。これはとても良い教訓になりました。

 私は割に早くスピードを上げており、今は「レベル5・時速4キロ」で走っていますが、道が分からなかったり、暗がりなどを走るときは、スピードさえ落とせば安全だと思っています。

 (4) 包括支援センター等で行っている様々なイベントの一つとして、電動車いす試乗会、体験会を行う。

 リハビリの関係者は、脊髄損傷など下半身に麻痺が出た方たちの足として「手動の車いす」のトレーニングは行なっています。

 ところが電動車いすは値段が高いため、これを実際に学習したりすることができません。臨床の中で、あるいは介護という現場で、専門家として経験したことのない物をトレーニングプログラムに導入したり、積極的に利用者に勧めることはとても難しいことです。

 電動車いすを生活の中で使うノウハウを、介護関係者やリハビリテーションの関係者が知る機会を、もっと沢山設けないと普及しません。実際に電動車いす本体を見て、触れて、体験する機会を作るべきでしょう。

 (5) デイサービス施設や介護施設に出向いて、体験会などを行う。

 今、新しく建設された地下鉄では、車いすやベビーカーが直接乗り込めるように、ホームの一部に傾斜をつけて、直接上がれるようになっています。

 ところがホームと車両の間のすき間が完全に埋まっていないので、少し勢いをつけないと、車いすの前輪がすき間にはまって、うまく乗れない場合があります。ベビーカーや、手動の車いすを押して乗る場合は役にたちますが、電動車いすの場合は、不十分だと思います。

 また丸ノ内線銀座線のように古くからできた地下鉄は、ホームへのアクセスは貨物用のエレベーターを使わせてもらうか、階段昇降機で代用したりしています。ところが階段昇降機は、人と車いすで合計100キロ未満でないと安全に使えないと言うことで、乗り換えがスムーズに行かないこともあります。

階段昇降機(写真・日本バリアフリー観光推進機構)

 こういったユーザーの不満は、当事者で無ければ分かりません。メーカー側も公共施設の職員も、「現場の声」を聞く機会が無いのです。そういった機会をもっと設けるべきなのです。

 日本の福祉全般を考えると、インフラも、人の理解も、まだまだこれからです。啓発が必要です。障害者の意見に耳を傾けて、マスメディアに広報活動をしてもらうことが必要だと感じます。

 経産省の「のろーよデンドウ車いすプロジェクト」は、喜ぶべき活動の一環でしょう。これをきっかけに、1人でも多くの理解者をふやすこと、それが私の希望であり、使命だと思うのです。

(次回へ続く)

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ブログ「吉野由美子の考えていること、していること」

月刊『視覚障害-その研究と情報』

視覚障害リハビリテーション協会

 

著書・執筆紹介

日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」 
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」

医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及

● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」   
1995年発行

●中央法規出版 介護専門誌「おはよう21」2020年12月号から2021年4月号まで「利用者の見えにくさへの支援とケア」連載予定

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吉野 由美子

よしの ゆみこ

1947年生まれ。 視力と歩行機能の重複障害者。先天性白内障で生後6ヶ月の時から、7回に分けて水晶体の摘出手術を受ける。足の障害は原因不明で3歳頃から大腿骨が内側に曲がる症状で、手術を3回受けて、68歳の時に骨粗鬆症から腰椎の圧迫骨折、現在は電動車椅子での生活。
東京教育大学附属盲学校(現:筑波大学附属視覚特別支援学校、以下:付属盲)の小学部から高等部を経て、日本福祉大学社会福祉学部を卒業。
名古屋ライトハウスあけの星声の図書館(現:名古屋盲人情報文化センター)で中途視覚障害者の相談支援業務を行ったのち、東京都の職員として11年間勤務。
その後、日本女子大学大学院を修了し、東京都立大学と高知女子大学で教鞭をとる。2009年4月から視覚障害リハビリテーション協会の会長に就任する。2019年3月に会長を退任し、現在は視覚障害リハビリテーション協会の広報委員と高齢視覚リハ分科会代表を務める。(略歴吉野由美子ブログ「吉野由美子の考えていること、していること」より構成)

 

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  • 吉野 由美子
  • 1997.02.01