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そもそも「大安」「仏滅」に吉凶の意味はなかった

なぜ1年354日? 伝統行事との関係は? 暮らしに役立つ「旧暦」②

◆大いなる天体の動きと自然現象が「暦」の基準

画像/photo AC

 旧暦の起源は、古代中国。飛鳥時代、日本に伝わった最初の暦は元嘉(げんか)暦だった。その後、平安時代の862年(貞観4)に採用された宣明(せんみょう)暦は800年以上も使われた。
「宣明暦は誤差が大きく、日食や月食がずれてしまうなど問題もありました。しかし、暦を変える権限があるのは天皇だけでしたから、長らく使われ続けました。江戸時代になると幕府が強大な権力を持ち、暦を制定する権限も幕府天文方に移ります」。

 1685年(貞享2)、渋川春海(しぶかわはるみ)が元の授時(じゅじ) 暦を改良して完成させた貞享暦が、ようやく採用された。そのあらましは、映画化もされた冲方丁(うぶかたとう)の小説『天地明察』でご存じの方も多いだろう。
 その後3回の改暦を経て、幕末から明治にかけて使われていたのは天保暦だ。一般に「旧暦」と言う場合、この天保暦を指す。

 日本の伝統的な年中行事は、旧暦に基づいて行われてきた。これをそのまま新暦の同じ日付に行うと、季節感が合わなくなることも多い。そのため、現在では行事を1カ月遅らせて行うこともあり、これを「月遅れ」と言う。
「本来お盆は、7月15日前後ですが、現在ほとんどの地域で8月に行われています。7月では仕事も休みにくいせいか、定着しませんでしたね。七夕も、仙台などでは梅雨の真っただ中の7月7日ではなく、月遅れの8月7日に行われますね。雨がめったに降らない時期だからこそ、降っても“清めの雨”と言われ、縁起がよいとされたのですが…」。

 暦の基本は、大いなる天体の動きと自然現象だ。季節感が失われがちないまこそ、自然に感謝して季節とともに生きた昔の人々の知恵を見直してみるのもよいだろう。

〈雑誌『一個人』2018年1月号より構成〉

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新谷 尚紀

しんたに たかのり

國學院大學文学部教授

国立歴史民俗博物館名誉教授。国立総合研究大学院大学名誉教授。民俗学者。1948年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学科卒業、同大学院博士過程修了。主な著書に『和のしきたり 日本の暦と年中行事』(日本文芸社)『日本人の春夏秋冬』(小学館)など多数。


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