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【少人数学級】実現に向けた小さな一歩と、大きな譲歩

第57回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■少人数学級と教員数はセットで考えなければならない

 もうひとつ、すぐに教員の数を増やさないことにも文科省は譲歩を示したようだ。文科相と財務相が直接協議で合意した前日の16日付『毎日新聞』は、「学級基準が引き下げられれば学級数が増え教員増が必要になるが、今回は、加配定数の一部を基礎定数に振り替えることによって補い、『35人学級』を実現する方向で調整しているという」と報じている。

 教員の配置は、学級数や児童生徒数に応じて決まる「基礎定数」と、特定の目的のために追加配置される「加配定数」がある。習熟度別指導などの特別授業を行うには基礎定数の教員だけでは足りない。そのために増員される教員が加配定数である。
 来年度から導入される小学校での35人学級では、この加配定数の一部を基礎定数に振り替えることによって補うというのだ。あくまで特別の授業のために割り当てられた教員をクラスの担任にすることで、クラスの数を増やすことになる。
 基礎定数を増やさなくては、安定的にクラスを増やすことにはならないし、35人学級の確立とはいえない。しかし加配定数の一部を振り返れば、教員を増やさなくていいかもしれないし、増えても最小限で抑えられる。だから、予算額が増えることを嫌う財務省も了解したと思われる。

 ただし、「加配定数の引き剥がしにつながらないか」との心配する声もある。このまま35人学級を実現するために加配定数の振り替えを進めていけば、加配定数がいなくなってしまうことにもつながりかねないからだ。
 そうなれば、習熟度別指導などの特別な授業が実施できない事態も考えられる。もしくは、クラス担任をやりながら習熟度別授業の補助も押し付けられる教員がでてくるかもしれない。教員の負担増になってしまうのだ。

 

■はじまるのはあくまで「最初の一歩」

 すでに小学1年生は35人学級となっており、今回の文科省と財務省の合意で実現に向かうのは小学2年生以上となる。とりあえず来年度は小学2年生で導入され、5年をかけて小学6年生にまで導入していく。
 必要な教員の数は増えていくわけで、それに見合う予算が確保されていかなければ、「加配定数の引き剥がし」が加速し、習熟度別授業の実施に支障をきたすか、教員の大きな負担増につながりかねない。

 ここで文科省に譲歩されては、たまったものではない。学校の「質」を保ち、向上させていくためには、譲歩ではなく、文科省には必要な教員の数を確保してく攻めの姿勢を示してもらわなければならないだろう。
「少人数学級に効果はない」と固執してきた財務省は、それを理由に小学校での少人数学級にブレーキをかけたり、中学での少人数学級導入に反対してくるかもしれない。教員の数を実質的に増やすとなると、それこそ徹底して反対してくるはずである。

 そこでも、文科省が譲歩することは許されない。それには、財務省の土俵にあがって少人数学級の効果を「学力」だけで論じるようなことをしてはいけない。少人数学級の要望が強まるきっかけになったのは新型コロナウイルス感染症だったが、その予防のための「密」を避ける手段としての少人数学級ということだけに頼ってはいけない。
 必要な教員の数を確保し、そして中学校にも35人学級を導入し、さらに小中学校での30人学級を実現するためにも、教育の「質」にこだわるべきだ。そして、その「質」を実現するためには少人数学級が必要であるという根本を忘れてはならない。

 今回の35人学級について萩生田文科相も「小さな一歩かもしれないが」と語っているように、これで終わったわけではない。
 世間も少人数学級に注目しはじめている。これ以上の譲歩をすることなく、前進させていく覚悟が文科省に問われている

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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