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【日本の学力と学習意欲】『脱ゆとり教育』が得たものと失ったもの

第56回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

ゆとり教育

■世界と日本、小4と中2の教育動向

「国際数学・理科教育動向調査」(TIMMS=ティムズ)の結果が、12月8日に公表されている。小学4年生と中学2年生を対象に、のべ64ヶ国・地域が参加し、国際教育到達度評価学会が4年ごとに実施している調査であるが、それを報じる大手マスコミの論調が興味深い。

 例えば『読売新聞』(オンライン、8日付)は【『脱ゆとり』日本の小中学生、算数・理科は世界5位以内…『勉強楽しい』割合も過去最高】という見出しで報じている。
 調査は1995年の国際平均を500点として得点を統計処理されているが、日本は中2数学が過去最高の594点(前回比8点増)で5位から4位に上昇している。ただし、中2理科は、570点(同1点減)で2位から3位に順位を落としている。そして小4算数は前回と同じ593点で順位も変わらず5位である。小4理科は562点(同7点減)で3位から4位となっている。

 点数が増えて順番も上がったのは、中2数学だけである。それにもかかわらず、「5位以内」だけが強調されて「脱ゆとり」と結び付けられている印象を受ける。
 それが、『産経ニュース』(8日付)ではさらに明確になっている。見出しは【『脱ゆとり教育』成果鮮明に 小4・中2の国際理数テスト、トップ水準維持】となっている。
 脱ゆとり教育の成果がでている、と見出しで断言しているのだ。

■「ゆとり教育」は悪手だったのか

 いわゆる「ゆとり教育」は、詰め込み教育の批判から2002年度に本格的に始まり、2010年代初期まで実施された教育である。教科書の内容や授業時数を減らすことで、ゆとりをもって子どもたちが学習に取り組むことが目的とされた。
 しかし学力低下を理由に「ゆとり教育」への批判は高まり、教育の振り子は再び学力偏重に傾いていく。その「脱ゆとり教育」の成果があらわれ、国際的にも「トップ水準」が「維持」されているというわけだ。ただし、「ゆとり教育」で学力が本当に低下したかどうか、議論の分かれるところでもある。
 ともかく、『読売新聞』も『産経ニュース』も「脱ゆとり教育」を高く評価していることは確かだ。

 他のメディアはどうか。『朝日新聞』(デジタル、9日付)では【小4『理科楽しい』、でも平均点は低下 数学・理科の国際調査】の見出しがついている。「脱ゆとり教育」の言葉はないし、成績を評価することにもなっていない。ただ記事には、「ゆとり教育」からの方向転換後に「平均得点は両科目ともに増加傾向」と、「脱ゆとり教育」の成果を認めてはいる。

 一方で『毎日新聞』(8日付)は【4教科すべてで5位以内維持 国際数学理科調査 『算数・数学の勉強は楽しい』は平均下回るという見出しである。記事にも「脱ゆとり教育」の言葉はない。「5位以内維持」を、「脱ゆとり教育」と結びつけるような記事内容にもなっていない。

 

次のページ子どもたちの「学習意欲」に関する調査結果は…

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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