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「終活」という言葉がなんと馬鹿馬鹿しいか

あなたの人生を知っているのは、あなた以外にいない 60歳からの「しばられない」生き方⑤

することだけはしたのだから

 人間が生きているなかで、しなければならないことはたったひとつ、仕事だけである。人間は生活をし、人間的に成長しなければならないからである。

 食べていくためには、働かなければならない。働くとはなにかとか、だれのために働くかとかの形而上学は、とりあえずどうでもいいことである。学校を出たら働くのである。

 当然、職業選択はあるが、なにはともあれ、働いて自分で食べていかなければならない。

 これだけが人間がしなければならない唯一のことである、とわたしは考えている。

 人間的な成長は仕事のなかで一番できる。社員同士の「親睦」という名目で、社員旅行や飲酒・食事会が行われるが、ただのつまらない形式である。社員同士のほんとうの信頼は仕事のなかでしか培われない。あとの私的な親睦は個人同士でやればいいだけのことだ。会社が介入することではない。社内運動会など余計なことである。

 もちろん会社行事はやってもいのだが、自由参加にするべきである(不参加者に当たってはいけない)。これは行事だが勤務扱いだ、というのはスジの通らない理屈である。じゃあ土曜の休日出勤だから、振り替え休日が出るのかといえば、出さない。会社が社員にできることは、できるだけ給料を出すことと、いい職場環境を作ることである。会社はこれだけをやってくれればいい。

 わたしたちは仕事のなかで、責任と協働ということを学ぶ。仕事の質は、責任に含まれる。仕事がただの金儲けのためでなくなるのは、そこに仕事自体の価値と人間的成長があるからである。

 ばかいうな、という人がいるだろう。ろくでもない会社があることは知っている。有名な大会社も例外ではない。

 大概は、会社経営をする資格もないし、人の上に立つ資格もない人間が社長をやっているか、旧日本軍の下士官みたいな加虐的体質の中堅幹部がいる会社である。そういう会社は論外である。そういう会社をどう是正していくかは、立法と行政の仕事である。

 わたしが想定しているのは、まともな人間がいる、まともな仕事(会社)のことである仕事以外は、すべて個人の自由でいいではないか、と思う。結婚も、子を持つことも、同好の集団に属するかも、どんな趣味を持つかも、酒を飲むか飲まないかも、友人を持つか持たないかも、個人の好き好きである。

 してもしなくてもいい。だれに強制されることもない。ところが、そうはいかないことは、この社会で生きている人間はだれでも知っている。どの社会でも似たようなものかもしれない。自己主張の苦手な人間は欧米では生きてはいけないといわれるが、この国にもいろいろなしばりが強すぎるのである。

 だが、もう働らかなくてもいいのである。十分働いたといっていい。もちろん60歳をすぎて働いてもいいのだが(そのほうが多いだろう)、もう自分にたいする義務ではない。もう仕事をしなくていいのなら、あとはすべて自由である。なにをしてもいいし、なにもしなくてもいい。だれに指南されることでもなければ、指図されることでもない。自分の好きにしていいのである。会社組織を離れれば、社会的なしばりもほとんどが消滅する。

 しかし、「人は自由という思想に耐えられるか」(西尾幹二)という命題があるように、自由を持て余して途方にくれ、なんらかのしばりを欲するようになると本末転倒である。

 ほんとうは「自由」なのに、それがただの「暇」になってしまうのだ。暇は自由のなかの一部にすぎない。それを自由全体を暇と考えて、あれやこれやで時間を埋めようとするのは、宝の持ち腐れである。一人ひとりの状況は異なる。そのなかで、「豊かさ」や「充実」などにとらわれることなく、自分ができることやしたいことをする。なにをしたらいいか、など、だれも教えてくれない。だれも助けてくれない。自分で考えるしかない。

〈『60歳からの「しばられない」生き方』より構成〉

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勢古 浩爾

せこ こうじ

1947 年、大分県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。洋書輸入会社に入社、 34年間勤続し、2006年に退職。以後、執筆活動に専念。 著書に『いやな世の中』(ベスト新書)』、『まれに見るバカ』(洋泉社・新書y)、『自分をつくるための読書術』(筑摩書房)、『定年後のリアル』(草思社文庫)シリーズ、『ウソつきの国』(ミシマ社)など多数。


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