名古屋は「日本三大ブスの産地」?

 名古屋は「日本三大ブスの産地」だという話もあった。この「三大」は「ブス」にかかるのではなく「産地」にかかる。日本の三大ブスが名古屋生まれだというのではなく、ブスの三大産地を挙げるとその一つに名古屋が入る、というのである。残る二つは、仙台と水戸だという。

 この本を読んだ時、私にはにわかには信じられなかった。名古屋にブスが多いということも、そんな説があるということもである。井上章一がこの説をまわりの人に話しても「たいていは、知らないという返事がかえってくる」。どうやら、これは「浮薄な風聞であり」「合理的な根拠をさがそうとするほうが、まちがっている」。井上はそう判断する。

 私は井上章一の本を読んで少し後、古本屋でこんな本を見つけた。三遊亭円丈『名古屋人の真実』(朝日文庫、2006)である。元版は1987年刊行の『雁道―名古屋禁断の書』(海越出版社)などだが、それを再編集して文庫化したものだ。

 この中にも「三大ブス産地説」が書かれている。

「昔から言われている日本のブスの三大地帯というのがある。これも時と場所によってその地名も変わるが、一応定説となっているのは水戸、名古屋、仙台、この三つがブスの三大名産地と言われている」

 この本自体、落語家の放談エッセイであって見るべきものが全くない。実は芸人のエッセイにはしばしば名著好著がある。古川緑波『非食記』(ちくま文庫)、春風亭柳昇『与太郎戦記』(ちくま文庫)、加藤大介『南の島に雪が降る』(ちくま文庫)などは、資料としての評価も高く、文章にも味わいがある。しかし、三遊亭円丈のこの本は単なる出まかせの放談集である。朝日新聞社がこんな本をわざわざ文庫化する意味があるのだろうか。出版人としての見識が疑われよう。

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