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NHK「パパ活」報道は「セックスワーク」に対する認識と敬意不足を露呈(藤森かよこ)

セックスワーカーはエッセンシャルワーカーである

セックスワークに暴力が生じやすいのは、セックスワークはエッセンシャルワークであるという認識が足りないから

 私が、NHKの「パパ活問題」に対する取り上げ方で不満に思ったもうひとつのことは、セックスワークの労働現場に生じがちな男性客による女性ワーカーに対する性的暴力が「なぜ」起きるのかという問題に関して、一切言及されなかったことだ。

 「なぜ」言及されなかったかというと、それは「セックスワークに暴力が生じるのは、あたりまえだ」という暗黙の無自覚の前提がNHKにあるからだ。

 なぜ、セックスワークというサービス提供の現場には、客のサービス提供者に対する暴力があたりまえに生じやすいのか?

 それは、セックスワークに対する蔑視があるからだ。ハッキリ言えば、性に対する蔑視があるからだ。生殖器に関する蔑視があるからだ。だから、生殖器利用にまつわる不具合を是正するサービスを提供するセックスワーカーが蔑視されるのだ。

 人間の身体の全ての内臓や器官は、人間にとって大事だ。脳も腸も肛門も生殖器も大事だ。「まだついている」器官はすべて大事だ。人類もどんどん変化進化するので、いずれは脳だけが肥大した宇宙人のグレイみたいに人類の身体が変化する可能性もあるが、今のところすべての器官が大事だ。

 私は、若い頃は自分の身体が邪魔で、精神だけで生きることができればいいのにとよく思ったものだったが、存在するものを無視すると、無視されたものから、いつか復讐される。私は、中年以降は、無視していた身体の諸器官に復讐されている。だから、ちゃんと堂々と生殖器も大事にしよう。適切に使用しよう。

 病気の高齢者の腸や肛門の機能不全による頑固な便秘を解決するために、ゴム手袋をはめて直腸を掘削(くっさく)してくれる看護師には感謝するのに、生殖器の詰まりを解消してくれるセックスワーカーに対して、なぜある種の男性たちは感謝できないのか。女神のようにあがめこそすれ、暴力をふるうなど、もってのほかだ。

 セックスワーカーに対して「ラクに稼げていいね」と嫌味を言ったり、「ちゃんと真面目に働いたら」と説教する馬鹿客がいるそうだ。ラクな仕事などはない。真面目にやっているからこそ、仕事は仕事として成立して報酬が生じる。そんなことを言う客は、彼ら自身が真面目に働いていないのだ。そういう類の人間は、コンビニの店員に横柄に振舞う無教養な客と同一人物であろう。

 セックスワーカーはエッセンシャルワーカーである。料金が発生しない性的関係(というものは本当はない気がするが)を構築しない男性に対して、一時的性的慰安というサービスを提供することは、重要な仕事だ。この社会の半分を占めるのは男性であり、その男性を支える仕事という意味において、セックスワークは社会を支える仕事だ。

 エッセンシャルワーカーとは、社会生活を営むうえで必要不可欠な仕事に従事している人たちのことだ。具体的には、生活必需品の小売り・販売従事者(スーパーマーケット店員・コンビニ店員・ドラッグストア店員)である。物流従事者(交通局の職員・鉄道会社職員・トラックの運転手、バスの運転手)である。医療福祉従事者(医師・看護師・薬剤師・介護士など)である。行政サービス従事者(市役所や区役所の職員・ごみ収集業者)である。教育・保育関係従事者(教師・保育士)や、保安関係従事者(警察官・消防士)である。一次産業従事者(農家・漁師・酪農家・畜産家)や警備員や清掃員である。

 セックスワーカーはエッセンシャルワーカーだ。前述の、鈴木傾城は、『デリヘル嬢と会う2—暗部に生きる女たちのカレイドスコープ』において、身体障碍者や知的障害者専用デリヘリを紹介している。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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