ソクラテスのような人物にどこに行けば会えますか? その時…

 店先でクセノフォンが書いた『ソクラテスの思い出』を読み耽り強い感銘を受けた彼は、本屋の店主に「ソクラテスのような人物はどこに行けば会えるのか」と尋ねた。すると店主は「あの人についていきなさい」と外を指差した。店の前の道をキュニコス派の哲学者クラテスが歩いていたのだ。そうしてゼノンはクラテスに弟子入りすることとなるのである。 

 クラテスはいつもみすぼらしい服装で、妻である女性哲学者ヒッパルキアと公衆の面前で恥ずかしげもなくまぐわったりする生活をしていた。クラテスの師匠である哲学者ディオゲネスも、人々から「犬」と呼ばれ、街に置かれた酒樽に住み着き、やはりみすぼらしい格好で物乞いのような生活をしていた。

 ゼノンが弟子入りしたキュニコス派というのは、このように貧しく、他の人から好奇の目で見られるような生き方をすることで肉体と精神を鍛え、通俗的な幸福ではない幸福を追求する学派だったのである。自ずと、そこで哲学を学ぶ者、探究する者たちは、世間一般の感覚からすれば奇人変人ばかりに見えたことだろう。

 弟子入りしたゼノンも同じように奇行をするように求められた。だが、もともと真面目でおとなしい性格のゼノンにはキュニコス派の奇行が恥ずかしく感じられたようで、上手く馴染めずにいた。そんな様子を見かねた師匠クラテスは、ある時、ゼノンに対して、豆のスープがたっぷりと入った鉢を持って人通りの多い道を通り抜けてくるように命じる。恥ずかしさを乗り越えるための、一種の試練だったのだろう。<後篇に続く>
【ソクラテス、クラテス……天才たちのおかしな日常に迫る連載】