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今さら聞けない「ロヒンギャ」差別の原因

【ロヒンギャ】を根本敬氏が徹底解説1/3

ミャンマーでは「ロヒンギャ」は禁句

トオル…ロヒンギャの人たちはミャンマーでどんな扱いをされているんですか?

根本…不法移民調査という大義名分で、政府軍や警察による行き過ぎた嫌がらせを何度も受けてきました。また、ラカイン州西北部のマウンドー郡とブーディータウン郡に住む住民の半分以上がロヒンギャですが、外の地域に出る際には許可が必要とされています。出るときは高額な供託金を払う必要もあります。通常、供託金は条件を満たせば返ってきますがいろいろな理由をつけられて返ってこないこともあるようです。また、ラカイン人とロヒンギャが共存するシットウェーという街では、5年前に起きた両民族間の暴動を機に、ロヒンギャが一区画に押し込められ、出られなくなりました。

トオル…身体的にも金銭的にもがんじがらめになっているんですね。

シズカ…さすがにやりすぎって思うミャンマー人はいないのかしら。「違法移民」と思っていても。

根本…リベラルな人権派の人たちは、ロヒンギャがその名前を捨てて「ベンガル人である」ことを素直に認めれば、温情で国籍を与えてもよいと考えている人が多いですね。民族名を名乗ることは基本的な人権の一部とみなされています。しかしミャンマーでは、ある集団に民族名を与えると、それは「土着民族」ということになります。土着民族には国籍が自動的に与えられますから、多くのミャンマー人はロヒンギャがそのように扱われることを「絶対に嫌だ」と思うわけです。実際、ミャンマー国内に一歩入ると「ロヒンギャ」という言葉は禁句ですからね。アウンサンスーチーさんも使っていません。

トオル…なるほど! だからロヒンギャは「民族」としてなかなか認められないんだ。

シズカ…一番最初の疑問とつながったわ。「民族」と認めてしまえば、お墨付きを与えてしまう。ミャンマー側としてはなんとしても避けたいのね。

トオル…アウンサンスーチーさんはノーベル平和賞をとった人だよね。この問題に対してどういう取り組みをしているんでしょう?

根本…アウンサンスーチーさんは大統領より上の立場の国家顧問です。昨年8月、問題解決に向けて元国連事務総長のコフィ・アナンさんに委員長になってもらい、「ラカイン問題調査委員会」を発足させています。でも、もう一度この委員会の名前をみてください。「ロヒンギャ」の「ロ」の字も入っていませんよね? アウンサンスーチーさんがこの委員会の発足にあたってアナンさんに唯一付けた条件が、「ロヒンギャ」という名前だけは使わないことでした。あとは1年間かけて自由に調査し、幅広い角度から議論を進めてほしいとお願いをしました。メンバー全9人のうち3人は外国人、イスラーム教徒も2人含まれました。

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根本 敬

ねもと けい

1957年(昭和32年)生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授などを経て、上智大学外国語学部教授。専攻、ビルマ近現代史。


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