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「どうすれば風俗で働かないで済むか」の間違い

「セックスワークサミット2017秋」レポート 後編

●「どうやったら働かないで済むか」だけではなく

   Aさんは児童養護施設出身で、施設を出た後、ビジネスホテルで正規雇用で働きました。週6で朝から晩まで働いて、手取りはたったの12万円。腰を痛めて、手術が必要となったことと同時に会社を解雇されて、寮にも退去を命じられました。

 そこでAさんは、出身施設に相談しました。でもその施設では「ここでは対応できないから、役所に相談しなさい」と言われました。役所に相談したら「親が生きているならば、まず親に相談しなさい」と言われました。

 そこで彼女は性風俗店で働き始めたのですが、色々トラブルがあって、うちの相談にたどり着きました。まさにこれは、社会保障が性風俗に敗北しているといったケースです。こういったケースは決して少なくありません。

 性風俗で働かざるを得ない退所者を減らすために、性風俗で安心・安全に働くために必要な学びや支援とは何か。今回、このサミットを主催した坂爪真吾さんの「風テラス」の取り組みですごくいいなと思ったのが、ただ単純に「性風俗で働かざるを得ない退所者をどう減らすか」という点だけでなく、今働いている人が安心・安全に働けるようにするためにはどうすればいいか、という視点が入っていること。ちゃんと現状を見ていると思うし、性風俗で働いている方への敬意を感じます。

 今までもこういったシンポジウムなどで、性暴力被害などのテーマでお話させて頂くことがあったのですが、この二つ目の視点がないところが多かったんですね。「どうやったら働かないで済むか」ばかりで。でも現実はそんなに甘くない。働かなくて済むのだったら、みんな働いていない。

 そういう中で、どのような学びや支援、制度が必要かということを考えていくと、私は教育の場、保育園や幼稚園、小・中・高で「自分の身体と心は一番大切なものなんだよ」ということを小さい時から学び続ける、教えられ続ける、ということが大事だと思います。

 自分が大事だと思えるきっかけは、まず「あなたが大事」だと伝えられることの積み重ねだと思うので、安心できる教育環境の中で、自分の身体や心に敏感になることが、自己防衛できる力にもつながると思います。

 危険な状況に陥りそうな時に回避できる力、助けを求める力は、自分で自分を大切だと思えることが、何よりもまず出発点になっていると思います。

 
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「セックスワーク・サミット2017冬 「つながる風俗女子」+シンポジウム「みんなでつくる『適正風俗』」(主催:一般社団法人ホワイトハンズ)が、2017年12月3日(日)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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