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「社会保障は性風俗に敗北した」を考える

「セックスワークサミット2017秋」レポート 前編

●複合的な困難を抱えた女性たちが性風俗で働く理由

 アフターケア相談所ゆずりはでは、児童養護施設や里親家庭を退所した方の相談支援事業を行っております。社会福祉法人子供の家が運営母体となって始めて、7年目を迎えております。

 ゆずりはの昨年度の相談者数は実数として400人程度、相談件数は1万件~2万件。そのうち女性からの相談は7~8割程度です。最近は男性からの相談も増えています。

 女性からどんな相談が来るのか。はじめは電話かメールで相談が来ます。体調が悪い、引っ越したいけど保証人がいない、彼氏と別れたい、お金を貸してほしい。そんな相談から始まります。

 でもそうした相談の背景には、真の相談があります。性虐待や性被害を受けた、実は妊娠している、中絶したいけれどお金がない、パートナーから暴力を振るわれている、性風俗で働こうかどうか迷っている、性風俗を辞めたいけどやめられない、一般の仕事先でのセクハラやパワハラやモラハラ。女性性であるがゆえに付随した相談です。

 相談内容が複合的で、暴力被害や性被害が多いのが女性の相談の特徴です。性風俗で働くかどうか迷っている、辞めたいけれどもやめられないという相談も、それほど多くは無いですが、一定の割合で受けています。

 一般家庭で育った子に比べて、施設退所者の子が性風俗で働く割合がどのくらいなのかは、データが無いので分からないのですが、その背景には就労状況の不安定さや生活苦があります。性風俗の仕事は、働く上で資格が問われません。中卒、高卒、資格なしでも問題はありません。保証人も要りません。お金が一文無しという状況で職場に飛び込んでも、即金で支払ってもらえたり、前払いでもらえることもある。住居や保育の設備も完備していたり、最低限の生活が即完備されるという仕組みがある。

 ただ、本当に性風俗で望んで働いているという人は、私が出会ってきた中ではいません。支援が整っているから性風俗で働くことを選んだという方がほとんどです。

 一方で、虐待などのトラウマがあることで「自分は生きていても仕方がない」「誰からも大切にされない」と考えていたけれど、性風俗で働くことを通して、初めて誰かに大切にされた、必要とされた、居場所がある、死ななくてよかった、自分でもこうやってお金が稼げるんだということを話してくれる退所者の方もいます。

 もちろん劣悪な性風俗の職場もあるので、大切にされている実感など芽生えないお店もあると思いますが、総じて困難な状況の方が求めていることに対して、性風俗のお店がきめ細やかにサポートのためのシステムを整えていると言わざるを得ない。

 
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「セックスワーク・サミット2017冬 「つながる風俗女子」+シンポジウム「みんなでつくる『適正風俗』」(主催:一般社団法人ホワイトハンズ)が、2017年12月3日(日)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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