能登の津々浦々を結んでいた、のと鉄道能登線(旧国鉄能登線)【前編】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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能登の津々浦々を結んでいた、のと鉄道能登線(旧国鉄能登線)【前編】

ぶらり大人の廃線旅 第21回

国道249号、そして矢波(やなみ)へ

 山側を通ってきた国道249号と再会し、これを走るとほどなく矢波(やなみ)駅跡。道のすぐ山側にホームが残っている。ここからしばらくは海を俯瞰しながら走るので、きっと気持ちの良い車窓風景だったのだろう。私はついにこの線は乗り損ねてしまったので、今は想像するのみだ。波並(はなみ)駅の手前で思わず車を停めたのが三波(さんなみ)簡易郵便局。年季の入った下見板張りに瓦葺き、いかにも戦前の建物だが、日本郵政の広告に登場したこともあるという。道草を喰いながらの廃線旅行はこんな余録が嬉しい。

歴史を感じさせる木造の三波(さんなみ)簡易郵便局。すぐ目の前に海が広がっている。

波並(はなみ)駅跡は駅名標を廃止後に新しく塗り替えた。ホームもきれいに保存されている。

 郵便局名はかつての自治体名をそのまま掲げていることが多いが、三波はかつての鳳至郡三波村で、矢波、波並、藤波と続く駅名の通り、波のつくこの3村が明治22年(1889)の町村制を機に合併したことに由来する。明治の大合併ではよくあるパターンである。今は三波という地名は存在せず、能登町矢波、能登町波並、能登町藤波という。波並駅のホームは海を間近に見下ろす所で、駅名標は廃止後に新しく塗り替えられ、「石川県鳳至郡三波村」という旧所在地名が記されている。草刈りもしてあった。それにしても「波」のつく駅が目立つが、数えてみると能登線の全線で鹿波、沖波、前波、矢波、波並、藤波、松波と合計7つもあった。

江戸時代から一帯の中心地として繁栄した宇出津の市街地。

 ほどなく藤波駅だがお昼時なのでスルーして宇出津(うしつ)の町へ入る。ここは現在の能登町役場もある一帯の中心地で、かつては七尾への沿岸航路や佐渡を結ぶ船便も発着する交通の要であり、漁港としても繁栄を誇った町である。現在では歴史ある街並みを保存する動きも出てきたようだ。ただし能登線が宇出津まで伸びたのは昭和35年(1960)と遅い。駅跡は能登中央図書館などの施設となっているが、今も「宇出津駅前」を名乗るバス停がロータリーに発着しており、ここからやはり廃駅の「輪島駅前」に向けて路線バスが走っている。

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今尾 恵介

いまお けいすけ

1959年横浜市生まれ。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。旅行ガイドブック等へのイラストマップ作成、地図・旅行関係の雑誌への連載をスタート。以後、地図・鉄道関係の単行本の執筆を精力的に手がける。 膨大な地図資料をもとに、地域の来し方や行く末を読み解き、環境、政治、地方都市のあり方までを考える。(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査、日野市町名地番整理審議会委員。主著に『日本鉄道旅行地図帳』『日本鉄道旅行歴史地図帳』(いずれも監修/新潮社)『新・鉄道廃線跡を歩く1~5』(編著/JTB)『地形図でたどる鉄道史(東日本編・西日本編)』(JTB)『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み1~3』『地図で読む昭和の日本』『地図で読む戦争の時代』 『地図で読む世界と日本』(すべて白水社)『地図入門』(講談社選書メチエ)『日本の地名遺産』(講談社+α新書)『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)『日本地図のたのしみ』『地図の遊び方』(すべてちくま文庫)『路面電車』(ちくま新書)『地図マニア 空想の旅』(集英社)など多数。


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