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北九州モノレールで空中散歩

小倉~企救丘駅20分のミニトリップ

■複線のはずなのに、車両はやってきた軌道をそのまま折り返していく謎。

小倉駅を発車したモノレール

 先日、北九州の小倉に3日ほど滞在した。泊まったのは、駅ビルの中にあるホテルで、朝食をレストランで摂りながら窓の外を見ていると、下の階の中からモノレールの車体が姿を現し、遠くへ走り去っていくのに出くわした。10分に1本ほど発着するので、何度も車両を見ることになり、すっかりおなじみになった。ただ、よく見ていると、車両はやってきた軌道をそのまま折り返していく。複線のはずなのに、左の線路を彼方からやってきた車両は左側の線路を、右の線路を進んできた車両は、そのまま右側の線路を戻っていく。左側通行あるいは右側通行と決まっているわけではなさそうだ。ちょっと珍しい光景なので、実際に乗って確かめなくてはと思った。幸い最終日は所用も終わり時間ができたので、終点まで20分のミニトリップをするべく、駅ビルの中にある、北九州モノレールの改札口に向かった。

ホテルのレストランから見たモノレール

 このモノレールは、Suicaなど全国共通のICカード乗車券で乗れるのはありがたい。自動券売機できっぷを買うことなく、いつも使っているSuicaを改札機にタッチして構内に入った。エスカレータでホームに上がると、右側の番線に電車が停まっていたので、乗り込む。モノレールの車体は様々なラッピングが施され賑やかだ。この車両は沿線にある小倉競馬場に因んで、黄色地に馬や騎士の写真を刷り込んだものだ。ただし、車内はすべてロングシート。運転台の後ろに「展望席」はなく、ちょっとがっかりした。まもなく発車。朝のラッシュアワーを過ぎた時間帯なので、空いているけれど、配線の様子が知りたいので立ったまま運転台後ろで前方を注視する。

モノレールの車体。終点企救丘にて


車内はロングシート

 モノレールは右側の線路を進む。ホームを離れてすぐのところには渡り線がないので、来た線路を戻るしかないようだ。すぐ前方に次の平和通駅が見える。1分もかからないうちに到着。島式ホームになっていて、左側のドアが開く。

 発車すると、渡り線があって、ここでモノレールは左側に転線する。平和通駅から本来の左側通行になるのだ。あとで知ったことだが、北九州モノレールが1985年に開業したときは、この平和通駅が起点の小倉駅を名乗っていた。その後、1998年にようやく現在のようにJR小倉駅に乗り入れることになった。そのため、軌道を400mほど継ぎ足したこととなり、諸般の事情から、小倉駅と平和通駅の間だけが単線並列として運行しているようだ。

小倉駅を発車直後の運転台-乗った電車は右側を進む


平和通駅の渡り線

 線路の謎が解けたので、空いているロングシートに腰を下ろし、斜め座りの状態で車窓を眺める。小倉駅近くの繁華街を進む。高いところを走っているので、すこぶる眺めがよい。次は旦過(たんが)駅。北九州の台所ともいうべき旦過市場の最寄り駅だ。ここを出ると、左に大きくカーブして南方へ向かう。周囲はマンションやビル、住宅が林立している。その中で、左側に白く光った球形の建物が見える。メディアドームという競輪場と様々なイベントが行われる屋内施設だ。

 片野駅を過ぎてしばらくすると複線電化の線路を跨ぐ。JR日豊本線だ。交差地点に駅はなく、次の城野駅が同名のJRの駅に近いけれど、歩くと10分以上かかるとのことだ。その城野駅の手前にある学校が県立小倉商業高校。部活動が盛んなようで、躍進ぶりを示す垂れ幕がいくつも校舎に掛かっているのが目に留まる。

JR日豊本線をオーバークロス
JR日豊本線をオーバークロス

 さらに進むと競馬場前という駅がある。右手の線路際に競馬場があり、車内からレースを行うコースが見下ろせて手に取るようにわかる。駅名にカッコして「北九州市立大学前」とあるのは、競馬場と線路をはさんで向かい合うように大学のキャンパスが隣接しているからだ。

小倉競馬場の様子

 次第次第に市街地の奥には山並みが近づいてくる。徳力公団前という駅の近くには、昭和の雰囲気を残す団地が見える。住宅公団という組織はすでにないけれど、駅名に残っているのは、千葉県内を走る新京成電鉄の高根公団駅と同様だ。昭和の時代から何も変わっていないので駅名を変えないのだろうか?

 徳力嵐山口駅を出ると大きく左にカーブして、東へと進路を変える。志井駅というのは、JR日田彦山線にもあるけれど、両駅は2㎞以上離れていて、歩くと30分はかかる。駅名が同じと言うだけで別の駅と考えた方が良いだろう。

 山が迫って来たものの、線路の周辺は住宅地だ。小倉駅を出て20分。終点の企救丘(きくがおか)駅に到着である。対向式のホームは中間駅みたいなので、さらに先へ延ばす計画があるのだろうか? 右側の上りの線路は、すぐに途切れてしまうけれど、下り線は先で左に大きくカーブして車両基地へと進んでいく。

 終点なので、改札を通って地上に降りてみる。高層のマンションが目に付き、このあたりは住宅地のようだ。モノレールの線路は、左にカーブしてぐるりと一周するようにして戻ってきて、その楕円軌道の中に車両基地がある。中は立ち入り禁止なので、周囲から基地を窺うしかない。うろうろしていると、どこからかディーゼルエンジンの音が響く。その方向に目をやると建物と木々の間からJR日田彦山線のディーゼルカーが走り去るのが見えた。本数が少ないので、当分は列車がないと思われる。惜しいことをした。

終点企救丘にある車両基地

 列車のことは忘れて、線路際を散策してみると公園らしきものがあったが、人影はなく、寂しげだ。その脇にスーパー銭湯とスポーツ施設の建物がある。4車線ほどの幅の広い通りの向こうにJRの駅舎が見えたので、横断歩道を渡って近寄ってみる。日田彦山線の志井公園駅で、とんがり屋根の洋風の建物がユニークだ。道路の下にホームが1面あり、人がいる。鉄道ファンではなさそうな普通の人のようだ。駅舎入口に時刻表があったのでチェックすると、小倉行きは1時間半近く列車が来ないけれど、筑豊方面の田川後藤寺行きの列車が5分ほどでやって来るようだ。乗ってもしょうがないので、列車が到着し、発車するのを見送って、小倉の中心部へ戻るべく企救丘駅へ戻った。

日田彦山線志井公園駅に到着したディーゼルカー

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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