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新しい観光列車「36ぷらす3」の車内を見学

JR九州の新しい観光列車(D&S列車)は10月16日から運行開始

■「36ぷらす3」の車内を見学

完成披露の場で挨拶する水戸岡氏と青柳JR九州社長、右は通常の787系
10月16日から運行を開始するJR九州の新しい観光列車(D&S列車)「36ぷらす3」。九州新幹線が開業するまで、在来線の特急「つばめ」に使われ、今なお各線の特急として働いている787系電車を黒く塗った上、車内も大改装して誕生した車両である。運行に先立ち、北九州市にある小倉総合車両センターにおいて完成披露報道公開が行われたので、その時に見学した車内の様子をご紹介しよう。

 数多く走っているJR九州のD&S列車としては、初の電車となる「36ぷらす3」(他はすべてディーゼルカー)。まず、列車名が面白い。36とは、九州が世界で36番目の大きさ(面積)の島であることに由来する。プラス3とは、この列車で、驚き、感動、幸せの3つを届け、お客様、地域の皆様、私たちで39(サンキュー)=感謝の輪を広げていくという意味だそうだ。博多を出発し、熊本、鹿児島中央、宮崎、大分、小倉、門司港と1198㎞を環状運転し、世界一大きい「感謝」の輪を描くと謳っている。

 さて、黒い塗装の6両編成の電車の車内を見ていこう。
 まずは、5号車と6号車から。5号車は、通路を挟んで1人席と2人席が並ぶ、どこにでもありそうなゆったりとしたグリーンの座席車。車内の内装は、いかにも水戸岡鋭治氏のデザインだ。シートの柄も床の格子状のもので、水戸岡デザインを見慣れた人には珍しくはない。ところが、6号車に移動すると、同じグリーンの座席車で、シートは5号車と大差はないものの、床が畳敷きであることに度肝を抜かれる。窓もブラインドが襖になっていて、さながら和室だ。お座敷列車以外での畳敷きは極めて珍しいことだ。

ぷらす3の5号車車内


畳敷きの6号車

 4号車に移動すると、ここはフリースペースのマルチカーである。同名の車両が同じく水戸岡鋭治氏がデザインした伊豆急のTHE ROYAL EXPRESS にもあったけれど、さらに進化した感じだ。座席は、向かい合わせのテーブル席、窓を向いた椅子席のほかソファーがあって変化に富んでいる。また、大きなモニター画面や書籍が並ぶラックがあり、乗客が席を離れてくつろぐスペースとして活用するのみならず、アテンダントさんの案内により体験メニューや車内イベントも行う計画とのことだ。

4号車マルチカー

 3号車は、小さな2人個室が6つあるほかはビュッフェとなっている。この車両は、もともとビュッフェだったものの、九州新幹線(新八代~鹿児島中央)の部分開業にともない「リレーつばめ」号として再デビューした際に座席車に改造されてしまった。したがって、17年ぶりのビュッフェ復活となったのである。座席車改造後もそのままだった丸天井もビュッフェに戻されて、もとの洒落た空間がよみがえった。立席カウンターとして、現行の列車では珍しい飲食コーナーの体験が再び可能になったのは喜ばしい。

3号車ビュッフェ

 残りの2号車と1号車はグリーン個室だ。車内の片側が狭い通路となっていて、ヨーロッパの列車を彷彿とさせる。2号車は6人用のコンパートメントが3室で、個室内は広い。ソファー上の座席や壁は水戸岡氏らしい凝った柄模様で独特の雰囲気を醸し出している。「ななつ星」や「或る列車」で体験した豪華列車の世界が三たび再現された。
 1号車も2号車同様のコンパートメントだが、6号車と同じく何と床が畳敷きだ。和洋折衷ともいえる独自の個性的な空間が広がっている。これだけ、型破りの車両が連なっていると、乗車ごとに予約する車両を変えてみたくなる。必然的にリピーターが増えそうだ。

2号車の通路


1号車コンパートメント内部

 ところで、「36ぷらす3」の運転区間だが、これまたユニークで、博多を発車すると、冒頭に記したような環状ルートを木曜から4日かけて1周する。そして5日目の月曜日は、博多~佐賀~長崎を往復し、九州すべての県庁所在地に立ち寄る行程だ。もっとも、「ななつ星」のように5日間通して乗車する必要はなく、好みの1日だけを利用することも可能だ。車内に寝台設備はないので、2日以上にまたがって乗車するときでも、列車とは別にホテルや旅館を予約しなければならない。また、車内はグリーン車扱いなので、「ななつ星」のようなべらぼうな高額料金ではない。座席車利用なら食事付きで最大2万円程度、メインは1万5000円以下である。リーズナブルな豪華列車ともいえる。

36ぷらす3のロゴとDISCOVER KYUSHUの文字

 一方、行程をつぶさに見てみると、土曜の宮崎~大分ルートでは、普通列車の本数が極めて少ないため下車することがほぼ不可能に近い宗太郎駅で10分停車、駅の様子をじっくりと観察することができる。次の重岡駅は「おもてなし駅」になっていて、20分停車中に地元の人たちによる特産品販売などのおもてなしが行われる。なかなかにマニアックな試みで、鉄道ファンなら食指が動くであろう。
 なお、災害のため肥薩おれんじ鉄道の一部区間が不通になったままなので、当面、木曜コース(博多~熊本~鹿児島中央)のみ運休となる。いずれにせよ、久しぶりに登場したJR九州の観光列車(D&S列車)は、様々な利用の仕方が可能で、鉄道旅行の魅力がまたひとつ加わった感がある。

各日の行程を示すポスター群

取材協力=JR九州

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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