【返礼品:へんれいひん】ねこさんの「恩返し」は倍返し⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム:吉田潮vsマンガ:地獄カレー》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【返礼品:へんれいひん】ねこさんの「恩返し」は倍返し⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム:吉田潮vsマンガ:地獄カレー》

【連載マンガvsコラム】期待しないでいいですか?Vol.9

◼︎妹・吉田潮は【返礼品】をどうコラムに書いたのか⁉️

 

 「ふるさと納税」は豪華な返礼品が話題となった。多くの人が返礼品目当てで、縁もゆかりもない地に納税したと聞く。知人からも「お肉がめちゃくちゃお得ですよ」と言われた。ふるさと納税のホームページを見ると、非常に魅力的ではある。あまおうにシャインマスカット、高級黒毛和牛に新米…そそられることは確かだ。

 人口が減り、税収が望めない自治体は必死だ。私自身は、商業五輪という無駄使いも可能な大都市・東京都に住んでいるので、むしろ積極的に疲弊している自治体に協力してもいいと思った。当初は面白い仕組みだなと感心もした。

 が、何かがひっかかる。税金は住んでいる場所やお世話になっている地域の安全や福祉のために使われるべきだ。返礼品目当てになると、大企業の悪しき輩が入り込んだり、妙な競争になって、逆にその地域の人が苦しむ制度になりやしないか。財源確保に奔走する自治体は、苛烈な返礼品競争を勝ち抜くために、地元農家に無理強いしていないだろうか。「大勢の消費者が得をするシステムの陰で、必ず誰かが泣いていることを忘れてはいけない」と、いつも思う。

 そう思うようになったのは、超零細企業で卸売と小売を営む夫の商売がきっかけだ。約10年前からアジやサバ、サンマ、キンメダイの干物のネット販売も始めたのだが、ナマモノなのでクール宅急便が必須。クール便はそれなりに高い。そして、クレジットカードが使えず、振り込み方式である。

 お客さんからのニーズは「送料無料にならないのか」「クレジットカードが使えないのか」である。正直、干物1枚の純利はたったの数十円である。大手のように送料無料なんて不可能だ。利益が出なくなってしまう。

 そして、いまどきクレジットカードくらいは使えたほうがよいのだが、数パーセントの手数料がとられる。数パーセントとはいえ、超零細企業にとっては痛い。

 脂がのった大きな干物を1枚200~300円と激安で販売しているので、全体的に価格を上げたらどうか? と思うのだが、夫は「値段は上げない」という。
そこは魚屋の最後の良心というか、プライドがあるようで、「干物は安くておいしい日常食」は変えたくないそうだ。過剰な包装もせず、質実剛健の商売を続けているのだが、時代の波に乗れていないのが現状。

 タクシー運転手から聞いた話も同様。現金で払う客が減り、みなクレジットカードやSuica、PASMO、電子マネーのカードで支払うようになったそう。なかには手数料がかかるカードもある。そしてそれは、タクシー会社ではなく、運転手の売上から引かれるというのだ。複数の運転手さんが嘆いていたのを聞いて、今後タクシーは必ず現金で払おうと思ったくらい。

 GoToキャンペーンも、結局は割引率の高くなる大手が得をするシステムのような気もしている。すべての電子マネーやクレジットカードがOK、送料無料、ポイント還元、クーポン配布……多数の消費者がちょこっと得をして便利になる陰には、小売店や個人事業主が身を切る思いをしているだけでなく、結局は大手企業が有利でウハウハと儲ける仕組みが存在するのだ。

 うっかり恨み節展開になってしまったが、今回のお題は「返礼品」。お返しというのはなかなかに厄介なもので、特に日本社会では「お返し合戦」みたいな状況に陥ることがある。お互いが感謝の気持ちをもって始まったことなのに、次第に「義務」のような感覚になり、最終的には「もう面倒臭いのにやめられない」と相手に対して負の感情を抱くような状況に。そんな経験、ないすか? 

 年賀状という仕組みはすでに廃れてきたし、高齢者の生存確認くらいの立ち位置になってきたので、よしとしよう。お中元やお歳暮も、世の中ではかなり減ったのかな。私はいただいたら、お礼のメールかはがきか手紙の送付で完了。送るときは何かのついでにして、熨斗はナシ。「返礼品不要」のスタンスで済ませる。

 返礼品合戦になってしまうのは、おそらく「ちゃんとした人、気遣いできる人、まっとうな社会人」と思われたい欲があるからだ。本来なら気持ちや言葉だけでよいはずが、「相応の品を!」と考えてしまう。そして、「いただいたものよりも高価なものを送るのは逆に気を遣わせてしまう」とか、「一人暮らしなのか、ご家族がいるのか、料理するかどうかもわからないから、ナマモノではないほうがいいかな」などと考えすぎると、選択が余計に難しくなる。

 そして、こういう返礼品合戦はたいていが「そんなに親しくない人」同士で行われる。親しくないからこそ、あれこれ考えて時間と手間をかけざるをえず。そして「もう面倒臭い…」となる。

 人間関係を縮小しろというつもりはない。どう思われようと「引き際」を決めておけば、あれこれと心煩わせることもなくなる。倍返しだの恩返しだのは不要。謝意だけ伝わればよいし、相手も決して見返りを求めているわけではないから。ゆくゆくは冠婚葬祭など、慣習や恒例行事からの卒業ができるといちばんいいよね。
 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)

毎月14、15日頃連載コラムvsマンガ「期待しないでいいですか?」

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



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