【ナイショで吉原に行ったのをきっかけに、大僧正へと出世した僧侶】 | BEST T!MESコラム

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ナイショで吉原に行ったのをきっかけに、大僧正へと出世した僧侶

江戸の性 第122回

イラスト/フォトライブラリー

江戸の性事情』(ベスト新書)が好評を博す、永井義男氏による寄稿。

 天明(1781~1789)のころ、芝の増上寺に霊瞬という、美貌の修行僧がいた。 

 あるとき、霊瞬は友人に吉原にさそわれた。本来、僧侶は女郎買いをすることは禁じられているが、霊瞬は若さも手伝い、

「では、一度だけなら」

 と、僧侶の身分を隠して吉原に行き、琴柱という遊女を買った。

 琴柱は霊瞬を心憎からず思ったのか、「これからも、たびたび来ておくんなんし」と、切に願う。

 霊瞬も琴柱が忘れられず、一度だけのつもりが、その後もしばしば吉原に出向いた。

 親しくなってから、琴柱に身の上を問われ、霊瞬は自分は僧侶であり、修行中の身であると、ありのままに話した。

「修行を積めば、末々は高い位につき、よい寺を持たせてもらえるのでありいすか」

「学問と修行をはげめば、あちこちの寺に移り住み、うまくいけば大僧正になれるかもしれない。しかし、僧侶の世界も要所に金を贈らなければ、なかなか引き立ててもらえなくてね」

 霊瞬は僧侶の出世の仕組みを正直に話して聞かせた。琴柱はじっと聞き入っていた。

 つぎに霊瞬が吉原を訪れたとき、琴柱がしみじみと言った。

「ふとした縁で、おまえさんとこうした親しい仲になることができました。これも前世の因縁というものでありいしょう」

 そして、ひと包の金を取り出し、男に渡した。

「この金を元にして、出世してくださりませ。今宵をかぎりに、もう、ここに来てはなりません。今後、女に近づくこともおやめなされ。わたくしは近いうちにこの世を去りますが、あの世からおまえさんを守ります」

 霊瞬は最初、金を受け取ることをこばんだが、琴柱にぜひとも受け取れとせがまれ、ついに受け取った。

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永井 義男

ながい よしお

小説家、江戸文化評論家。1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。


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