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埼玉県民も絶対知らない 「埼玉」地名発祥の地 「前玉神社」

埼玉地名の由来を歩く④

「サキタマ」は「幸御魂(さきみたま)」のこと

前玉神社

 この「前玉」(転じて「埼玉」)という言葉にはどんな意味が込められているか。それについては、『武蔵国式内社の歴史地理』(1966年)をまとめた菱沼勇氏の論が参考になった。氏の論を参考に「前玉」(「埼玉」)について私なりにまとめてみると、次のようになる。

 神の御魂(ミタマ)は大きく分けると、「荒御魂(あらみたま)」と「和御魂(にぎみたま)」に分かれる。「荒御魂」は「荒く猛き神霊」(広辞苑、以下引用は同じ)のことであり、「和御魂」は「柔和・情熱などの徳を備えた神霊または霊魂」のことである。

 この「和御魂」にはさらに二つの神霊があって、一つは「幸御魂(さきみたま)」で、「人に幸福を与える神の霊魂」、もう一つは「奇御魂(くしみたま)」で、これは「不思議な力を持つ神霊」のことだという。

 神社では「前(さき)」は「幸」、「玉(たま)」は「魂」の意味であり、「幸魂(さいわいのみたま)神社」であるとしているので、この解釈は間違いないものであろう。

「埼玉」の由来について、これほど明快な解釈を下している文献は、私の見た範囲ではこれだけであった。

 つまり、「埼玉」は「人に幸福を与える神の霊魂」を意味していたということである。「埼玉県」には人を幸福にする魂があるということで、素晴らしい県名ということになる。

『埼玉地名の由来を歩く』(著・谷川彰英)より構成〉

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谷川 彰英

たにかわ あきひで

筑波大名誉教授

1945年長野県生まれ。ノンフィクション作家。東京教育大学(現・筑波大学)、同大学院博士課程修了。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。筑波大学教授、理事・副学長を歴任するも、退職と同時にノンフィクション作家に転身し、第二の人生を歩む。筑波大学名誉教授。日本地名研究所元所長。主な作品に、『京都 地名の由来を歩く』シリーズ(ベスト新書)(他に、江戸・東京、奈良、名古屋、信州編)、 『大阪「駅名」の謎』シリーズ(祥伝社黄金文庫)(他に、京都奈良、東京編)『戦国武将はなぜ その「地名」をつけたのか?』 (朝日新書)などがある。

 

 

 

 

 

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