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【9年制学校?】「義務教育学校」増加で教員の働き方は改善されるか

第44回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■大切なのは教員の働きかた

 同じことは、小中一貫型小学校・中学校にも共通している。義務教育学校のように一体ではないものの、距離的に近い小中学校が連携度を強めるための仕組みが小中一貫である。
 これまでは小学校と中学校は別のものであり、両者の交流はほとんどなかったといっていい。それがカリキュラムを組むにも両者が相談することで、効果的なものにしていくことができる。
 その小中一貫型小学校・中学校の数も2019年度で461校があり、増加傾向にある。
 こうした動きのなかで注目すべきなのが、小学校での教科担任制である。今年8月20には、中央教育審議会の「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」が、小学校高学年から教科担任制を2022年度から本格的に導入するよう求める骨子案をまとめている。それによれば、対象とすべき教科は外国語(英語)、理科、算数で、今年度中には正式に案をまとめて文科相に答申する予定だ。

 小学校では、1人の学級担任がほぼすべての教科を指導する「学級担任制」をとっているところが多い。ただし、実技や実験のある音楽や理科などで教科担任制が広がってきてはいる。その教科範囲を、さらに広げようというわけだ。 
 教科担任制拡大によって、「教育の質向上や過重労働が問題となっている教員の働き方改革につなげたい」と文科省は説明している。負担の大きい外国語やプログラミングが加わる理科、算数を教科担任制にすることで、学級担任の負担を減らせるとアピールしているのだ。

■教科担任制拡大で教員の数は足りるのか

 教科担任制拡大は教員の働き方改革の一貫と強調することで、学校現場の同意を得やすいと考えているのかもしれない。たしかに外国語やプログラミングを指導する負担は大きく、そこから解放されるメリットは大きい。
 しかし、それで教員の過重労働解消に効果があるかについては疑問が残る。教科担任が、担任をもたず専門科目だけ指導を指導する立場だとは限らない。学級担任も兼務するとなれば、専門科目外については、ほかの教員に頼らなければならなくなる。
 つまり、教員の数そのものを増やさなければ、過重労働解消にはつながらない。教科担任制は教員の数を増やすことと併せて論じなければならないのだが、そこには触れられていない。

 その一方で、中央教育審議会初等中等教育分科会では「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方」を論点として決めている。そして、「小学校と中学校の義務教育9年間を見通して、児童生徒への指導や学校運営を推進していく場合には、それに対応する教員の指導力を担保する仕組みが必要」という流れになっている。
 9年間一体として考え、そこに教科担任制を敷けば、中学の教員が小学校で教えることも可能になる。実際、小学校と中学校の両方の免許を取得させる方向での議論が進んでもいる。

 小学校と中学校を一貫化する方向で大きく動いており、教科担任や教員免許の問題もそこにつながっている。そうした中で教科担任制で文科省がアピールしている教員の働き方改革との関係が、今後どのように具体化してくるのか注意して見守る必要がありそうだ。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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