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【新刊発売記念】倉山満先生インタビュー(前編)

『真・戦争論 世界大戦と危険な半島』著者・倉山満先生インタビュー

Q3:大日本帝国時代の外交(日清・日露前)と大東亜戦争時代の外交、現在の日本外交の相違点とは何でしょうか?

倉山 日清日露前の明治の外交と、大東亜戦争時代の外交、大東亜および現在の日本外交の相違点。

 これは一言ですね。“利口とバカ”。

 実は外務省の近現代史を書かないかっていろんな出版社から声をかけていただいているのですが、戦後は書くことがないのです。

 “安倍晋太郎は、国際政治がきれいごとじゃなくて力の論理で動いていることを知っていました、終了!”みたいな。そのレベルです。

 戦後あれだけコロコロ変わっても取り上げられるのは、5人くらいです。

 明治などは無能な人は外務大臣やりませんから、大隈重信以外、全員利口です。

 ちょっと話題がそれてしまうのですが、外交史っていう講座自体が大学からどんどん無くなっています。加えて、外交官試験が普通の国家公務員の試験と統合されました。

 昔だったら鹿島守之助さんが幕末外交から大東亜戦争までを全34巻にまとめていて、それを全部頭に叩き込んでいることが外交官の基礎素養でした。

 昔は、それぞれの外務大臣の実績を頭に入れているなんて当たり前だったのです。

 今は全くやりません。

 ただ、現代は論外としても、昭和の外交も、相当なものです。

 最強の軍事力を持っていた大日本帝国を滅ぼしたのですから。

 あの状況で普通、日本が負けるか?という、滅ぼし様がないものを滅ぼしたという才能です。その才能の一端を探るっていうのはある意味、興味深いですが。(笑)

 それに比べ、明治の人たちの偉さっていうのはやっぱり地球儀を見て物を考えていたことです。

 さらにその地球儀の中で、すごくちっぽけなバルカン半島という火薬庫のことをものすごくよく見ていたのです。

 隣の朝鮮とか中国とかロシアとかあるいはアメリカとか見るなんて当たり前です。

 結局、ヨーロッパを見てないとわからないのです。

 さらにヨーロッパっていうと、実はバルカン半島という火薬庫がある。バルカンのことがわからないと、もう何もわからないのです。

 今でも外務省ってヨーロピアンが1番優秀だそうです。ただ、出世は出来ません。

 米中朝露のことなどわかっていて当たり前なのですが、ヨーロッパ、特にイギリスフランスなどに揉め事が特にあるわけではありませんから。

 分かりやすくいえば、戦後の外務省の歴史って、駐英大使の格が下がっていく歴史なのです。

Q4:オビの裏側にあるキャッチ、「戦争」よりもっと悲惨なことがあるという意味は何でしょうか?

倉山 この質問の大前提は、日本人は戦争がこの世で最も悲惨なことだと思っているわけですよね。

 戦争というのが実に文明的な行為であるということを忘れているのです。

 戦争は実は、文明的なのです。

 すみません逆に、お尋ねしますが、戦争の定義ってなんでしょう?もしくは多少雑多でもいいので、戦争のイメージだけでも教えていただけますか?

―――(インタビュアー)殺し合いですか?よくわからないです、そう言われると。

 

倉山 そうなんです。意外とわからないのです。

 この世で一番悲惨なことって言われながらもその定義などはわからない。

 戦争と人殺しの区別がついてない教え方をしているからです。つまり、今の日本の教育では戦争は大規模な人殺しとしか考えられなくなるのです。

 戦争というのは、国家と国家の決闘です。ケンカやリンチとは決定的に違います。決闘っていうのは資格のある立派な者同士がやるから決闘なのです。加えて、時間と場所を決めてやるわけです。

 だから本当の決闘としての戦争というのは、日本では関ケ原の戦いみたいなものなのです。

 場所を決めて誰もいない原っぱで、国と国の軍隊がいて、みんな見物している。プレーヤー同士がゲームやっていて、観客に飛び火するなんて許されないみたいなことになるわけです。

 また、戦争というのはきちんとしたルールがあります。

 戦争とは、宣戦布告で始まり、講和条約を締結して終わります。宣戦布告した瞬間に、当事者がきます、味方と敵が。それ以外は中立です。それぞれに中立の義務があるし、味方と敵も中立国に対してやっちゃいけない行為があります。

 もちろん非戦闘員を殺してはダメとかのルールもあります。

 しかし、戦争っていうのは実は1945年に根絶されています。

 国連憲章で宣戦布告を禁止してしまったからです。

 じゃあ今、湾岸戦争、イラク戦争とは何だっていうと、昔の言葉で言うなら「事変」、今の言葉でいうと「紛争」です。

 だからベトナム戦争なんて最初フランスとベトナムが戦っていたのに、いつのまにかフランスがいなくなってアメリカがやっているわけです。

 今のイラク戦争だってアメリカがサダム・フセイン倒してもまだ終わらなくて、何をやっているかっていうと、世界中のテロリストがイラクに集まってアメリカ人をどれだけ殺せるかという天下一武道会みたいなコンテストをやっているわけじゃないですか。

 だから、今起きているのは戦争じゃないのです。

 宣戦布告がないってことは、いつ始まっていつ終わるかのけじめがない。

 ということは、誰が味方で、敵が誰で、誰が中立かって区別がない。さらに戦闘員と非戦闘員のけじめがつかなくなって、でたらめになっていきます。

 戦争を根絶することによって、世界はより野蛮になったのです。

 その中で最も悲惨なのはバルカン紛争です。第一次世界大戦以降、決闘としての戦争はなくなっていくのですけど、そのきっかけはバルカン半島の19世紀の流れです。

 本書『真・戦争論 世界大戦と危険な半島』を読まれたら、その意味がよくわかると思います。

(後編へ続く)
 

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倉山 満

くらやま みつる

憲政史研究家

1973年、香川県生まれ。憲政史研究家。

1996年、中央大学文学部史学科国史学専攻卒業後、同大学院博士前期課程を修了。

在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、2015年まで日本国憲法を教える。2012年、希望日本研究所所長を務める。

著書に、『誰が殺した? 日本国憲法!』(講談社)『検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む』(光文社)『日本人だけが知らない「本当の世界史」』(PHP研究所)『嘘だらけの日米近現代史』などをはじめとする「嘘だらけシリーズ」『保守の心得』『帝国憲法の真実』(いずれも扶桑社)『反日プロパガンダの近現代史』(アスペクト)『常識から疑え! 山川日本史〈近現代史編〉』(上・下いずれもヒカルランド)『逆にしたらよくわかる教育勅語 -ほんとうは危険思想なんかじゃなかった』(ハート出版)『お役所仕事の大東亜戦争』(三才ブックス)『倉山満が読み解く 太平記の時代―最強の日本人論・逞しい室町の人々』(青林堂)『大間違いの太平洋戦争』『真・戦争論 世界大戦と危険な半島』(いずれも小社刊)など多数。

現在、ブログ「倉山満の砦」やコンテンツ配信サービス「倉山塾」(https://kurayama.cd-pf.net/)や「チャンネルくらら」(https://www.youtube.com/channel/UCDrXxofz1CIOo9vqwHqfIyg)などで積極的に言論活動を行っている。

 

 

 

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真・戦争論 世界大戦と危険な半島
  • 倉山 満
  • 2015.03.26