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Scene.42 本屋から、LOVE&PEACE!

高円寺文庫センター物語㊷

「そうなの!

店長が水木しげる先生を引き合いに出して。『千年先を考える』と、言っていたでしょ。

でも、百年単位で考えても出版業界はヤバいわ。

実家の山形に帰ると、月山を眺めているのね。さらに湯殿山や羽黒山を眺めながら考えていたら、この出羽三山って修験道の聖地じゃない。パワーを得たのか、いろんな想念が湧いて思索しちゃうわけ!

でもその想念の源は、読み重ねてきた本からの知識があってこそなのよね」

「そうですか。そうなら帰郷のはなむけに、『宇宙船地球号』という本をおススメしますよ。

ボクが20代で影響を受けた本なんですが、その本で大きく思索の旅は広がりました。『宇宙船地球号』の概念からは、20世紀的思考は亡霊でしかないんです。

21世紀、22世紀へと橋渡しできる思想は、国境と民族と宗教の超克だとすると、100年単位じゃないでしょう、やっぱり千年単位で考える視点なんですよ!

核を保有し管理しているつもりの人類は、この世紀に止揚できなければ滅ぶことだろう。自然環境の保護を急がないと、ヒトがいなくなることと知った方が良い。

ヒトの愚行による戦争の世界の推定戦死者は、16世紀:160万人。17世紀:610万人。18世紀:700万人。19世紀1940万人。20世紀:1億780万人。20世紀という文明の頂点が、史上最悪の野蛮な世紀となったということを考えさせられるけど。これに今後は温暖化と核=原発の脅威が加わったんですよ!」

「ホントよね。原発が安全なら、不便な僻地に作るのおかしくない?!

広瀬隆の著作、『東京に原発を!』でしょ。暗黒の宇宙にぽっかりと青く輝く地球は、かけがえのない宇宙船なのにね!

きっとUFOは、心配して来てくれているんじゃないの」

「そうですよ。葛西臨海公園から、ディズニーリゾートのホテル群のすぐ上に金色に輝く円盤を見ちゃいましたもん!」

 

「店長、ご無沙汰してました。

やっと新刊を出せるのと、サイン会のご相談もあってお邪魔しました」

長いこと、いろんな版元を見てきたけど。歴史書や人文書を手掛けながら、音楽事務所までこなしている方は寡聞にして知らない。

手広くやっているように見えても、両者ともども地味。懐に札束が転がり込んでくるわけもないのに東奔西走は、本と音楽が好きで堪らないんだろうと思う。

歳を重ねてからの顔は自分で作るというが、この社長はひと目で安心を感じて心を開かせる徳が現れていた。人間、性根がたやすく顔に現れるものだという、良い例を目の当たりにして人間観察の肥やしになった。

しかし、なんといってもこの方の財産は、ひとえに人徳による人脈。これは小人には築けない。などと幽体離脱していたら・・・・

「店長。今月のイベントは、目白押しで凄いじゃないですか。

一昨日のサイン会で3回もあったんですね」

「あ、まだイベントの告知ポスター貼ってあったのを見ましたか!

コンスタントにイベントをしたいんですけど、何カ月もできなかったり今月みたいに3本もあったりと、営業的にはとても難しくって」

「わかります。

そうはいっても、文庫センターさんは多岐にわたったジャンルでのイベントだから、なおのこと大変だと思いますよ」

このチラシを保存していた自分の、収集癖に感謝と思った!作ってくれたのは、りえ蔵だよな?! この頃、自分の携帯に写真機能がなかったのが残念!

「浅草キッドさんと駕籠真太郎さんは二度目なので、安心できたサイン会でしたけどね。

岡田史子さんは、作品を読んでもいない漫画家さんで来客が読めなかったんですよ。それでも蓋を開けてみれば、駕篭さんで30人を突破してやれやれで。岡田さんの時はてんてこ舞いのサイン会になりました。

漫画家仲間の方々まで駆けつけてくれて、牧田在生さんは初対面だし、町田ひらくさんはサイン会をして下さった方なのでと、あちらこちらとご挨拶をしているうちに終わった感じで・・・・

岡田さんが、たまに無表情を見せるので気になってサイン会の終わりに『今日は、いかがでしたか?』と尋ねたら、『楽しかったです』って、ニッコリされたので安心しましたよ。

「餅は餅屋。本は本屋。でも生もの相手は、気苦労が絶えないですね。

本の営業を通して、書店さんと出会えるし。音楽を介して、ミュージシャンたちとも出会える。その気苦労が、また刺激的で前に進む気を起こさせるんですよ」

「同感です!

ボクの口癖は、『さあ、先へ行こう!』だそうですから」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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