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ユニセフの「子どもの幸福度調査」から透けて見える日本人の問題

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「日本の子どもの『精神的な幸福度』が最下位から2番目の37位だった」「自殺、不満、肥満、低い社会的スキルや学力といったことが、先進国の子どもたちに共通に見られる特徴」……2020年9月3日にユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所が発表した「レポートカード」シリーズの最新報告書が話題だ。しかし、この調査の中身って何なんだ? 日本の子ども幸福度はなぜ低いのか? 『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』で日本でしたたかに生きる術を指南した著者・藤森かよこ氏(福山市立大学名誉教授)が、この「子どもの幸福度調査」を分析。「なぜ日本の子どもの幸福度は低いのか」について明らかにする。


■ユニセフの子どもの幸福度調査に対する違和感

写真:PIXTA

 最近のニュースで私が違和感を持ったのは、国連児童基金イノチェンティ研究所(UNICEF Office of Research – Innocenti)が9月3日に発表した先進・新興国38カ国に住む子ども(5歳から19歳まで)の幸福度を調査した報告書(Report Card 16)についてだった。Report Cardは「通信簿」とか「成績表」の意味だ。
 https://www.unicef-irc.org/child-well-being-report-card-16
 
 報告書は、経済協力開発機構(OECD)と欧州連合(EU)の加盟国を国連などの統計を用いて分析したものだ。OECDに加盟していないロシアはこの調査の対象外である。OECDのパートナーではあるが加盟はしていないので、中国やインドやインドネシアやブラジルや南アフリカ共和国も調査対象外である。台湾は先進国ではあるが、中国が常任理事国の国連には加盟できないので、やはり調査対象外だ。
 
 日本のメディアが、今回のReport Card 16について注目したのは、日本の子どもの「精神的な幸福度」が最下位から2番目の37位だったからだ。
 
 私が違和感を持ったのは、ここだ。「精神的な幸福度」は、どうやって測ったのか? 幸福感という非常に個人的で微妙なものを、どうやって評価したのか?

■ Report Card 16全文を読む

 あいにくと、「日本ユニセフ」のウェッブサイトは報告書の概要を示すだけで、日本語訳全文は掲載していなかった。全訳掲載の予定日は「未定」だそうだ。しかたないので、UNICEFのReport Card 16の68ページ分の英文pdfを大雑把ではあるが、読んでみた。
 
 主としてEU優等生と目される類のヨーロッパ諸国が比較的、上位に並んでいる。オランダ(Netherlands)、デンマーク、ノルウェー、スイス、フィンランド、スウェーデン、スペイン、スロヴェニア、クロアチア、アイルランド、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツにハンガリーにオーストリアだ。
 
 最近EUを抜けた英国やアメリカ合衆国やカナダやオーストラリアにニュージーランドなど、旧大英帝国系諸国(Five Eyesとも呼ばれる)は、比較的下位だ。
 
 北欧の高税高福祉国が軒並み最上位グループに入っていて、子どもの精神的幸福度が高いという調査結果が出ているのは、収入の半分近くが税金で消えても、教育費も医療費も無料なので、大人の生活苦ストレスがなく、その反映で子どももストレスを感じないからだろうか。北欧の福祉政策が移民の流入によって脅かされているという内容のダグラス・マレーの『西洋の自死—移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社)を読んだことがあるが、心配はないらしい。
 
 Report Card 16によると、日本の成績は、身体的健康度は1位で、学力や社会的スキルは27位で、精神的幸福度が37位で、総合20位だ。総合19位はイタリアで、身体的健康度は31位で、スキルは15位で、精神的幸福度が9位である。総合21位は韓国で、身体的健康度は13位で、スキルは11位で、精神的幸福度が34位である。
 
 こういう調査の統計とか数値の割り出し方の根拠やそれらの妥当性は、私にはわからない。レポートを読んでもわからない。統計学を学んだプロでないとわからないのかもしれない。

 Report Card 16には、これ以外に、「子どもの幸福のための政策と環境」のランキングがある。
 政策(policies)は、社会的政策(social)と教育政策(education)と健康政策(health)から評価される。広義の環境(context)は、経済(economy)と社会(society)と自然環境(environment)から評価される。
 
 日本は、政策面では、社会的政策7位、教育政策23位、健康政策34位。広義の環境は、経済11位、社会29位、自然環境18位で、41か国中で総合17位である。

 経済状況では、日本は失業率が一番低く、子どもの貧困率も18.8%と平均の20%よりは低かった(現在のコロナ危機以後は失業率も貧困率も上がっているだろう)。

 つまり、日本は経済状況も諸外国に比較すれば悪くはなく、子どもの肥満率も低く健康に恵まれていて、子どもの福祉に関する政策面でも比較的に悪くはない。では、なぜ日本の子どもの精神的幸福度は低いとReport Card 16は評価したのか?

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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