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新内閣は「教員の部活顧問制度」改革に取り組めるか

第42回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

顧問

■教員の負担における「部活」の比重は大きい

 文科省の「学校における働き方改革推進本部」は9月1日に第4回目の会合を開き、部活動の改革について議論を行った。その中で、「令和5(2023)年度以降、休日の部活動を段階的に地域移行していく」との方向性が示された。休日の部活動を地域人材に任せて、教員が関わらなくてもいいようにしていくということらしい。

 多忙な教員が部活を負担に感じていることは、いろいろな調査で明らかにされている。例えば森永製菓が2019年8月に部活顧問の教員・現役生・部活動OBOG合計1,000人を対象に行なった結果を発表しているが、「部活を負担に感じている」と回答した教員は73%にもおよんでいる。
 その理由の1位は「時間的理由」であり、実に92.5%を占める。部活の顧問といっても、通常の教員としての業務はこなさなくてはならない。
 授業や生活指導、いろいろな分掌(校務)が免除されるわけではない。それだけでも教員の生活は多忙を極めている。その上で、部活の面倒まで見なくてはならないとなると、それこそ、いくら時間があっても足りるはずがないのだ。

 さらに、経験のない種目の顧問をやらされているケースがある。学生時代は水泳が不得意だった教員が水泳部の顧問をやらされるといったことは珍しくない。好きでもないし、どうやって教えていいかわからないのに顧問をやるのだから、精神的には大きな苦痛だ。技術のない顧問では、子どもたちも素直に従わない。そこにも精神的苦痛が生まれる。
 教員としての通常業務でもボロボロなのに、部活によってさらに疲弊する。「負担が大きすぎる」と訴える顧問が少なくないのは当然だ。

■部活動の地域移行は進むのか

 だから文科省の働き方推進本部も、これを改善していこうとしているのだ。そして、「第1歩」として打ち出してきたのが、休日の部活動を学校外の地域に委託するという案である。
 しかし、これに対しては疑問・不満の声が多い。ある公立中学で運動部の顧問を務める教員は「地域に移るのは土日だけで平日の部活動が学校に残るのであれば、二重構造となり問題が増えるだけだ」と言う。
 平日は教員が指導して休日は教員以外の指導員が担当するということになれば、「複数の指導者」が存在することになる。うまく意思疎通がとれて連携できればいいが、簡単ではなさそうだ。

 うまくいかなければ、混乱を招くことになる。そのとばっちりを受けるのは、間違いなく子どもたちとなる。 
 そうならないために、連携を強化しようとすれば、そのための時間と労力を割かなければならない。部活顧問の教員にとっては、新しく仕事が増えることにもなりかねない。「働き方改革」と言いながら、より多忙になってしまいかねない。


■人材と費用の問題をどうするのか

 実現するためには、まず人材の問題が挙げられる。つまり、教員以外の指導員の確保である。文科省としては退職教員、地域のスポーツ指導員、スポーツ推進委員、それに総合型地域スポーツクラブや民間スポーツクラブ、芸術団体などのメンバーを想定しているらしい。さらに文科省の担当官は、「休日であれば、平日に仕事のある地域の人材でも参加しやすい」と説明しているという。

 しかし、すでにスポーツ指導員やスポーツ推進委員として活動している人材であれば、休日にも活動している可能性は高い。スポーツクラブにしても休日ほど忙しいはずである。そうしたところから学校の部活を指導する人材を調達しようとしても、簡単にはいかないだろう。
 平日に仕事のある人も休日なら参加しやすい、という文科省の考え方もいかがなものだろうか。平日に忙しい教員が休日くらいは休みたいと思うなら、学校外の人たちも同じはずだ。教員の負担を減らすために学校外の人たちの負担を増やすことが、本当に働き方改革になるのだろうか、という疑問もある。

 問題は他にもある。
 9月1日の働き方改革推進本部で示された資料を見ると、休日の部活動を地域に移行するための方策として、「保護者による費用負担、地方自治体による減免措置等と国による支援」とある。地方と国の果たす役割は詳しく書かれてはいないが「保護者による費用負担」は気になる。
 退職教員であろうとスポーツクラブのメンバーであろうと、指導員として迎えようとすれば、当然ながら報酬が必要になる。部活動のための指導者への報酬が、保護者負担を前提にされているのだ。
 「子どものためだから…」と保護者からの抵抗は少ないかもしれないが、それが負担できないために部活動を続けられない子どもが出てくる可能性は否定できない。予算をかけたくない文科省の本音が見えてしまう。

■学校教育における部活の意義とは

 そもそも、文科省は部活動をどのように位置づけているのか。先の働き方改革推進本部での資料には、「部活動は必ずしも教師が担う必要のない業務であることを踏まえ」とある。文科省は、部活動を「学校でやるべきことではない」と考えているのだろうか。

 前述した森永製菓の調査で、「部活にやりがいを感じる」と回答している教員は59.5%を占めている。理由として「生徒の成長を感じるから」(97.5%)、「生徒が達成感を感じるから」(95%)、「生徒が努力することの大切さを知るから」(93.3%)という声が挙がっている。

 負担と感じる一方で、部活の意義を認めている教員も少なくないということだ。つまり、部活動の問題は単純に白黒をつける性格の問題ではない。
 部活動が教育の一環として必要なものなら、単純に学校から追い出すような策は問題だ。学校教育にとって必要なものなら、部活動と学校生活が両立する環境を整えていくことが必要になる。

 現在のように、教員に無理やりやらせる体制ではなく、部活動の意義から問い直し、教員が納得して取り組める体制を考えていく議論が必要である。それをやってこそ、本当の働き方改革である。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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