よしもとも文芸を中心に出版事業に参入

 これらを芥川賞系とすれば、読み物小説誌を中核とした直木賞系のほうも、常に熱く動いています。『小説野性時代』に軸足をおいた加藤シゲアキさんの作家活動は堅調ですし、元TBSアナウンサーの小島慶子さんが『オール讀物』と『小説新潮』両誌で連載小説を手がけるほか、押切もえさん、壇蜜さん、中江有里さん、黒木渚さんなどが続々と作品を発表。これも近年に特徴的な現象というよりは、本書の後章で取り上げるような、小説誌が脈々と取り組んできた編集施策の一つと見てよく、こういったなかから、ひきつづき文学賞の候補者が出てくるのは、まったく自然な流れです。

 そんななかで、金の匂いがすれば何にでも手を出すといわれる芸能プロダクションのよしもと(吉本興業、よしもとクリエイティブ・エージェンシー)も、文芸をはじめとした出版を積極的に手がけています。〈麒麟〉の田村裕が放ったベストセラー『ホームレス中学生』(07年、ワニブックス)から日も浅い07年にはワニブックスとの共同出資でヨシモトブックスを立ち上げ、一二年、創業百周年を記念した「笑いと平和の百冊シリーズ」を企画したり、出版社と協力した「幻冬舎よしもと文庫」(09年創刊)、「小学館よしもと新書」(16年創刊)という箱を用意したりと、所属タレントたちの芸能活動との相乗効果を次々と模索中です。

 ……とか、そんなよしもとの事情について、芸能ライターでも事情通でもない一介の文学賞好きが知ったかぶって書いても仕方ありません。ともかく言えることは、芸能人による小説やエッセイ、ポエム、絵本、その他は日本の出版界の一角を占める重要な文化として、いまのいままですこやかに育ってきたことは事実ですし、85年に太田プロダクションから太田出版が派生して、独自の出版カラーを堅持しながら生き残っていることを見れば、よしもとがそういったチャレンジをすることは、ほんとに価値があります。

 また、新潮社には02年からつづく公募賞「女による女のためのR-18文学賞」というのがありますが、吉本興業が一三年から協賛に付き、一五年からはピン芸人の友近さんが特別審査員を務め、毎回「友近賞」を選んでいます。これがどんな効果を上げているのか、いまもって未知数で不明ですけど、成功することを祈るばかりです。

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