国家の軽視と新型コロナの軽視は同根!【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第4回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国家の軽視と新型コロナの軽視は同根!【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第4回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人

■集団免疫戦略とメンタル・サイトカインストーム

適菜:藤井氏はやさしくて純粋なところがありますよね。真善美とかプラトンの洞窟の比喩とか言いたがる。でも、真善美とされてきたもののいかがわしさを感知するのが本来の保守でしょう。

中野:そのはずなんですがね。むやみに真善美を振り回す者が、真善美から程遠い主張や行動を平気でするなんてことは、よくありますからね。

佐藤:真善美というのは非常にデリケートなものでして、派手に振り回したりすると成分変化を起こし、偽悪醜に化けてしまう。本当に真善美を伝えたかったら、壊れないよう、嘘という緩衝材で包み込まねばなりません。
 劇団四季を率いた浅利慶太さんが、1960年に発表した「芝居について」という文章でいいことを仰っています。「芝居は、嘘ばかりを積み重ねて、人生のまこと(注:つまり真善美)を時に見事に描き出す。(中略)嘘で固められた芝居が生み出す人生のまことは、実人生のまことよりは、より鋭く新鮮で、本物である」(表記を一部変更)。これは芝居に限った話ではないのですよ。

中野:なるほど。逆に言えば、「真善美を追求するのが哲学です!」なんて御高説垂れる学者の姿は、芝居がかっていますね。

適菜:ははは。

佐藤:ある種の人々にとっては、新型コロナがここまで世界的に流行するというだけで、世界観が崩れ落ちるインパクトがあったんですよ。20世紀の世界では、人間は病気をどんどんなくしてゆけることになっていた。1978年、WHOがユニセフと共同で開催した国際会議では、「2000年までにすべての人間が健康な生活を送れるようにする」という宣言(アルマ・アタ宣言)が採択されています。
「健康な生活」の定義は、社会的・経済的に生産的な活動が行えること。つまり行動制限で経済が回らなかったら、たとえ感染していなくても「健康」ではありません。感染していないのに健康でないとなったら、それはまあ、何が何だか分からなくなるでしょう。
 世界観が崩れ落ちるのは大変なダメージ。当然、それを修復しようとする動きが脳内で生じます。いわば精神の免疫反応ですが、これが往々にして行き過ぎる。メンタルなサイトカイン・ストームと言えるかも知れない。

適菜:感染の量が多くなると、炎症の量も多くなり、サイトカインが大量に放出される。それがサイトカインストーム(免疫暴走)ですね。

佐藤:暴走状態ですから、感情と論理の区別などつくはずがない。前回使った表現にならえば、魂の叫びが止まらなくなる次第。当然、言動からは一貫性や整合性がなくなります。ところが世界観崩壊の苦痛をやわらげようとしてか、どうもこのとき、鎮痛作用を持つ脳内物質が分泌されるらしい。
 すると当人は気持ち良くなるんです。『平和主義は貧困への道』で使った表現で言えば「爽快」。世界観の崩壊について、リスクマネジメントをやってのけたように思えてくるんですね。
 よって世間の人々も、自分の言葉に耳を傾けるべきだということになる。で、同じように世界観崩壊を起こしている人々が、それを聞いて「わが意を得たり!」と喜ぶわけです。

中野:そのせいか、議論が混乱していて、私にはよく分からない話がいろいろとあるんですよ。例えば、藤井聡氏や宮沢孝幸氏は、当初、若い人が活動して積極的に免疫を獲得し、集団免疫を形成するという戦略を唱えていましたよね
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20200604/)。他方で、彼らは、「〇〇さえ徹底すれば、感染しない」としきりに喧伝しています。しかし、彼らの感染防止策を徹底したら、集団免疫の形成は遅れるのではないか。感染を拡大していいのか、感染防止を徹底すべきなのか、どっちなのかよく分からない。彼らが集団免疫戦略を撤回したのか、していないのかも、よく分からない。

適菜:宮沢氏は3月には、自分が他人に感染させる可能性があることを強く意識しろみたいな話をしていましたよね(https://twitter.com/takavet1/status/12437397780039734272)。

中野:そう。だから意味がわからないんですよ。もちろん、誰にも感染させないように意識するという宮沢氏の主張は正しいですよ。しかし、誰にも感染させないようにしたら、集団免疫の形成は妨げられてしまうんじゃないですかね。
 他にも、よく分からない議論がある。
 さっき言ったように、藤井氏は、どうせ財政政策は行われないからという理由で、自粛緩和して経済を回せと主張していた。ところが、その後、「半自粛と財政政策が一番いい」とツイート(https://twitter.com/sf_satoshifujii/status/1283393114120417280)。
「自粛+財政政策」を叫んでも成功しないけれど、「半自粛+財政政策」をつぶやくと成功するのでしょうかね。これも、よく分からない。まあ、西浦先生を攻撃したい一心で、持論の財政政策論を捨ててまで「自粛緩和」「半自粛」を唱えてみたものの、後になって、捨てたのが惜しくなって、しれっと拾いなおしたってとこかな。

(第5回へ続く)

 

中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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「新型コロナは風邪」「外出自粛や行動制限は無意味だ」

「新型コロナは夏には収束する」などと

無責任な言論を垂れ流し続ける似非知識人よ!

感染拡大を恐れて警鐘を鳴らす本物の専門家たちを罵倒し、

不安な国民を惑わした言論人を「実名」で糾弾する!

 

 

危機の時にデマゴーグたちに煽動されないよう、

ウイルスに抗する免疫力をもつように、

確かな思想と強い精神力をもつ必要があるのです。

思想の免疫力を高めるためのワクチンとは、

具体的には、良質の思想に馴染んでおくこと、

それに尽きます。——————中野剛志

 

 

専門的な医学知識もないのに、

「コロナ脳」「自粛厨」などと

不安な国民をバカにしてるのは誰なのか?

新型コロナに関してデマ・楽観論を

流してきた「悪質な言論人」の

責任を追及する!———————適菜収

 

 

『思想の免疫力』目次

 

はじめに———デマゴーグに対する免疫力 中野剛志  

 

第一章 

人間は未知の事態に

いかに対峙すべきか

言葉の限界について

なぜ丸山眞男を批判するのか

小林が指摘した近代的思考の暴力

封建社会と市民社会

文学の裏には政治がある

人間は政治的動物である

政治家は「顔」で判断しろ

顔と同じで文体も誤魔化せない

 

第二章 

成功体験のある人間ほど

失敗するのはなぜか

「型」や「文体」の重要性  

制約のあるところに「自由」がある  

「意は似せ易く、姿は似せ難し」  

イチローと宮本武蔵  

二宮尊徳の「書物の読み方」  

イデオロギーはものの本質を見えなくする  

僕は馬鹿だから反省なんぞしない  

人間は同じパターンで間違いを繰り返す  

新型コロナの最も怖い症状  

 

第三章 

新型コロナで正体がバレた

似非知識人

福沢が説いた「私立と自由」  

「瘠我慢の説」とはなにか  

京都大学大学院教授  

人を説得することは可能なのか  

「言葉の恐ろしさ」と自己欺瞞  

「知識人ごっこ」の危うさ  

 

第四章 

思想と哲学の背後に流れる水脈

マイケル・ポランニーの「暗黙知」  

「知っている」とはどういうことか?   

「信じることと知ること」  

「暗黙知」とは体得するもの  

「馴染む」という知のあり方  

 

第五章 

コロナ禍は

「歴史を学ぶ」チャンスである

小林が語った秀吉の「朝鮮出兵」  

歴史とは鏡である  

学問は一代限りのもの  

学問や思想が腐りやすい理由  

教育者としての資質  

 

第六章 人間の陥りやすい罠

「筆を折る」と宣言した大学院教授  

現代貨幣理論)と藤井聡  

オウム真理教と知識人の悪ふざけ  

日本をダメにした「朝生」言論人  

時よ止まれ、おまえは美しい  

現代の俗物図鑑  

 

第七章 「保守」はいつから堕落したのか

議論とディベートを同一視する危険  

ディベートからの悪い影響  

日本が狂い始めた転換点  

「根回し」は合意形成の必須要件  

新自由主義という堕落  

世代交代に期待できるか  

「保守」が劣化した理由  

「大衆」とはなにか  

 

 

第八章 

人間はなぜ自発的に

縛られようとするのか

なぜグルを求めるのか  

アルコールと理性の限界  

「科学」に対する誤解  

イスラムでアルコールが禁止されている理由  

文壇バーと過剰な自意識  

 

 

第九章 人間の本質は「ものまね」である

コロッケが偉大な理由  

ミラクルひかると坂本冬休み  

「ものまね芸」を無形文化遺産に  

なぜ人は笑うのか  

型破りと芸の本質  

記憶も無意識のものまね  

ピカソや伊藤若冲に見えていたもの  

芸術は主観と客観を一致させる  

偉大な芸術家や学者の顔が若いのはなぜ?   

本質を見抜くトクヴィルの目  

 

おわりに———なにかを予知するということ 適菜   

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