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国家の軽視と新型コロナの軽視は同根!【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:第4回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人


危機が発生すると、必ずデマゴーグが出現する。今回、新型コロナウイルスのパンデミックがあぶり出したのは、無責任な極論、似非科学、陰謀論を声高に叫び出す連中の正体だった。彼らの発言は二転三転してきたが、社会に与えた害は大きい。実際、人の命がかかわっているのだ。追及すべきは、わが国の知的土壌の脆弱性である。専門家の中でも意見が分かれる中、われわれはどのように思考すればいいのだろうか。中野剛志×佐藤健志×適菜収が緊急鼎談を行った(第4回)


新型コロナ対策専門家会議は「人との接触を8割削減」を含む対策をまとめ、政府に提言。政府がそれを決定し、政策として発表した。その政策責任の所在は政府にあって専門家会議にないのは明白であり、常識だ。その後、「接触8割減」の自粛要請は「西浦モデル」として日本の感染第1波の抑制に効果をあらわしたと評価されている。 クレジット:ZUMA press/アフロ

■行動制限緩和論は「現実からの逃避」だ

佐藤:行動制限緩和論の台頭は、コロナに対する現実否認を社会規模で行おうとする試みである、そうまとめることができます。
「現実を否認して、都合のいい夢に酔いたい」というのが2010年代以後の日本のテンプレ。でなければ「現実のあり方は、閣議決定や官房長官の答弁で自由に規定できる」と言わんばかりの振る舞いをする政権が、長期にわたって支持されるなどありえない。8月28日、安倍総理が退陣を表明したあと、菅官房長官が次の自民党総裁候補(=総理候補)として急浮上したのも、「安倍退陣という現実を否認する試み」と考えればよく分かります。
 そしてこれは、国家否定のもとで国家の衰退に対処しようとしたことの論理的帰結です。わが国の「右傾化」「保守化」と呼ばれるものの正体は、現実否認による逃避の深刻化にすぎなかった。

適菜:おっしゃる通りです。

佐藤:専門家会議の功績は、そのような状況にもかかわらず、現実に直面するよう仕向けたこと。ゆえに会議の存在が注目されている間、コロナ感染は収束する傾向を見せたが、だからこそバッシングを受けた。感染が収束しなければ経済が本当に回ることもない以上、6月以後の政府は「経済優先」に舵を切ったのではなく、「現実否認」ないし「現実逃避」に舵を切ったと言うべきです。
 2020年東京オリンピックは、2010年代に達成されるはずだった「日本再生」の総仕上げと目されていました。それにならえば、行動制限(=自粛)反対の高まりは、2010年代を通じて進行してきた現実否認の総仕上げです。適菜さんの『安倍でもわかる』シリーズ(KKベストセラーズ刊)や、私の『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ刊)とも関連する内容ですが、まさに「病んでいるのは、ああいうものを増長させたわれわれの社会」なのです。

適菜:それはよくわかります。自称保守も左翼も、結局は、国家の否定です。

佐藤:国家を否定しながら、国家的危機に立ち向かおうとしているのです。うまく行くことを期待するほうがおかしい。

適菜:それで分裂するか矛盾を抱え込むかどちらかしかなくなる。

佐藤:事態がそこまで来ているときに、なお日本を再生させる道があるとしたら、一体何だろうかという話ですね。
 戦後日本はナショナリズムを肯定しなくても、たまたま国として存立を保つことができた。アメリカに従属し、現地妻となって添い遂げていれば、どうにかなったのです。
 弊害がなかったとは言いませんよ。新自由主義も台頭したし、グローバル化も進んだ。しかし、国が滅びることはありませんでした。
 ところがここに来て、政府がナショナリズムに基づいて積極的に動かないことには対処しえない事態が生じた。あとは二者択一なんですよ。ナショナリズムに目覚めたらどうにかなる。目覚めなかったらどうにもならない。
 その意味では、今になって分裂したり、矛盾を抱え込んだりしたわけではありません。過去75年間、ずっとそうだったんです。

中野:確かにこの規模の感染症は経験したことがない。それこそ国家レベルで全国民を行動変容させなきゃいけないっていう意味では、国家について考えてこなかった者には無理でしょうね。

適菜:戦争下と同じですよね。それなのに「国が行動を制限するのはけしからん」みたいなことを言い出す連中が出てくる。

中野:そうです。欧米諸国でもやっていることですが、今回の新型コロナは全国民を行動変容すべく総動員しなければならない。医療物資も統制しなければならない。まさに適菜さんがおっしゃるように戦時下みたいなものです。国家が前面に出て国民を動員しなければ、国民の命が助からないという状況です。それで戦争や国家というものと目を逸らし続けてきた戦後日本に、いよいよやばいものが突きつけられたなと。

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中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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