小田急ロマンスカーとオリエント急行 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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小田急ロマンスカーとオリエント急行

時空を超えたノスタルジックな時間

 

 

 

オリエント急行の入口付近

 わざわざ、この美術館にやってきたのは、館内に「オリエント急行」の客車が保存されているからだ。さっそく、ル・トランという展示室へ向かう。青と白に塗り分けられた車体は、サロンカーとして使われたもので、1988年に、パリからシベリア鉄道を経由し、香港から海路日本に上陸した「オリエント急行」の大ツアーのときの1両でもある。パリとイスタンブールを定期的に走っていた「オリエント急行」に連結された記録はなく、もっぱらパリと南仏を結んでいた「コートダジュール急行」に使われていた。こうした国際列車の寝台車や食堂車、サロンカーは、ワゴン・リという国際寝台車会社に所属していたので、ワゴン・リ社が運行していた列車の中でも日本によく知られた「オリエント急行」の車両として紹介されているのである。

オリエント急行の行先標示板

ワゴン・リ社のエンブレム

 実は、1988年の日本での走行時に、品川駅で展示され、私も見学に行ったことがある。だから、その時以来の再会とも言える。まずは、外観をつぶさに見ていく。ドアの楕円形の窓は実に優雅な雰囲気を醸し出している。各種表記のアルファベットも模様のようで美しい。中ほどの窓下に掲げられたワゴン・リ社のエンブレムの何と豪華なことか。「北斗星」にも似たようなエンブレムが取り付けられていたが、やはり本家のものは風格がある。そして、サボ(行先標示板)。ヨーロッパの各都市、シベリア鉄道などの駅名が列挙されているけれど、最後には東京、札幌、大阪、神戸と書かれている。これらは、来日時の行程の一部を示したものなのだ。

サロンカー内部

 

装飾品で飾られた車内

 一通り見終わったところで、車内へ入る。歴史的な車両なので、マホガニーの木材が多用され、テーブル席が並び、椅子は、ゆったりとしたソファー席だ。列車内というよりは、お屋敷あるいはクラシックホテルのラウンジのようである。壁の装飾品やランプも優雅なスタイルだ。こうした調度品をデザインしたのが、ガラス工芸家のラリック氏なので、この美術館に「オリエント急行」の車両が展示されるに至ったのである。

車内で食べた特製弁当

 入館時に、特製のお弁当を買えば車内で食べてもよいということだったので、テーブル席についてお弁当を広げる。和風の駅弁スタイルで、掛紙には「紺碧海岸御辨當」と書かれ、緑色の蒸気機関車が牽引するワゴン・リと思しき列車のイラストが描かれている。洋風料理なのが救いだけれど、包装紙をほどく前だったら、何だかミスマッチ。本当は、軽いフレンチやケーキセットの方が雰囲気的にはぴったりであろう。特別展が終われば、車内はティータイムのカフェに戻るとのことだ。

 動くわけではないけれど、本物の「オリエント急行」に乗ったので、いっときヨーロッパを優雅に旅している気分が味わえた。かつて旅したヨーロッパのことを懐かしく思いだし、ノスタルジックな時空を超えた時間を過ごした。最近、豪華列車が話題になっているけれど、私が乗ってみたいのは、「ななつ星」でも、「四季島」や「瑞風」でもなく、ヨーロッパを走る「オリエント急行」。乗ってみたいと改めて思った。

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