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【第3波を乗り越える】正しいことをやってると信じている全体主義ほど、恐ろしいものはない《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊸》

命を守る講義㊸「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


■全体主義に抗う

 同調圧力が極まると、全体主義に行き着きます。これは日本だけの話じゃなくて、世界のどの国にも全体主義に転ぶリスクは常にあるんです。

 ぼくはダイヤモンド・プリンセスのときに、結果的には日本を批判するという形になったので、そのせいで左翼扱いされています。日本って不思議な場所で、日本を批判すると左翼、日本を褒めると右翼扱いされますよね。本来は違うのですが、この国では一応、そういうふうに言葉が使われる形になっています。

 でも本当は、右翼も左翼もどちらも良くない。ヒトラーもスターリンも毛沢東もポル・ポトも、みんな危険です。右も左も関係なく、全体主義、言い換えると多様性を認めないことが、とても危ういんです。「合わない人は排除する」という論理は、行き着くと彼らがやったような虐殺に結び付く。

 ダイヤモンド・プリンセスでぼくに起こったことは、典型的な全体主義でした。違う意見を認めないで、排除する。しかも追い出した人は、「みんな頑張ってるのに和を乱す奴がおかしい。自分たちは正しいことをやったんだ」と思ってるわけです。それが一番危うい。

 正しいことをやってると信じている全体主義ほど、恐ろしいものはないですよ。例えば相模原の障害者施設での虐殺でもそうだし、東京医科大学などで起こった入試での女性差別もそうだし、とにかく「調和を乱す人は排除する」という論理が正当化されると、何でもありになってしまう。極めて危険です。

 だから正しいかどうかとは関係なく、多様性は保持することこそが大事なのです。たとえ間違った意見だったとしても、多様性を保持しないとダメなんです。

 その意見がどんなに荒唐無稽であろうと、その意見があるということだけは認めるという原則が守られないと、危ない。「俺はおまえの意見が間違ってると思うから、排除」という社会は、極めて危ない。多様な意見があることそのものは、絶対に否定してはいけません。

 例えば上昌広先生がテレビのワイドショーに出て「PCRをどんどんやるべきだ」って言ってますよね。あれに対して、医療界は結構、袋叩きモードになっています。「あの人は感染症の専門家でもないくせに、勝手なことを言って」みたいな人格攻撃をし出していますが、あれはあれで良くない。

 ここまでに説明してきたとおり、ぼくも上先生の意見には賛成しませんけれど、だったらそれはそれとして、意見を言う権利はちゃんと認めて、「そこはこういうふうに間違ってますよ」と反応すればいいだけなんです。

 そこのところ、医療界はすぐに「上とかいう人間は、けしからん」みたいな話に持っていってしまう。ぼく自身の業界が排除型、全体主義的なところだから、まずは自分の業界から直していくべきですね。

 議論に対しては、議論で対応するべき。その上で「これはいい」「悪い」というのはいくらでもやっていいし、やるべきなんだけど、「あいつが許せない」とか「排除しろ」みたいな話に持っていくのは、極めて危険です。科学を守るという意味でも、社会を守るという意味でも、この風潮には絶対に抗わないといけない。

「新型コロナウイルスの真実㊹へつづく)

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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