【想定内のウソ】官僚が事実と数字を隠すとき「事大主義」となり、その忖度の犠牲は民が背負う悲劇《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉟》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【想定内のウソ】官僚が事実と数字を隠すとき「事大主義」となり、その忖度の犠牲は民が背負う悲劇《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉟》

命を守る講義㉟「新型コロナウイルスの真実」

■検査をしなければ、感染者は存在しない

 もう一つは、もっと怖い問題です。
「こういうピークが出ないように、ピークを低くしましょう、遅らせましょう」という目標を立てたからには、現実のピークの高さを数値として把握する必要があります。

 ところが、現在の日本では検査数をかなり押さえているので、この山がどれぐらいの高さになるか、じつは現実の数字が見えていません。

 ダイヤモンド・プリンセスの対応でも起こったように、「こんなピークが起きてはいけない」という話が、「こんなピークは見たくない」という願望にすり替わってないか、という危惧を、ぼくはしています。

 このピークを見ない方法は簡単。検査をしなければいい。

 検査をしなければ、感染者は存在しない。だからピークは起きてない。ピークが起きてないってことは、ピークは起きなかった、我々の思った通りじゃないか。
 という話にならないか、とても心配なんです。ピークが起きないようにすることと、ピークを見なかったことにすることは全然違いますから。

 それどころか、見て見ぬふりをして見逃された患者さんからどんどん他人に感染し続けて、もっと大きなピークがやって来てしまうことになる。

 それと同じことが、多分イタリアで起きました。2020年3月中旬の時点で、イタリアは感染者の増加数が最も多い国です。それ以前に多くの感染者を出した中国では新規の感染者がほとんど出てないですし、韓国でも新規の感染者はだんだんと減りつつあります。完全にコントロールの外にあるのがイタリア、それからスペインで、すごい勢いで患者さんが増えています(同年3月時点)。

 イタリアでは1日何百例とどんどん患者さんが増えているのですが、それは、いままさにウイルス感染がワッと拡がっているのでは、多分ありません。そうではなくて、1月ぐらいには感染者がワッと増えていた。報道によると、すでに2019年には感染が始まっていたのではないか、という説もあります。そのときに放置していたのを今になってようやく検査し出したらワッと陽性、次に検査したらまたワッと陽性……そんなことが毎日起きている、というのがぼくの予測です。コントロールできない状態まで感染が拡がった後になって、初めて介入をしたわけですね。

 日本では、今は患者さんの数が割と抑えられている。それは多分事実だと思います。ですけど、これから起こる高いピークを見たくないから、見ないことにしようみたいな話になって、検査をあんまり抑えすぎると、とても危ない。イタリアと同じことが起きて、後でもっと大きなしっぺ返しが来てしまうでしょう。

 だから、やっぱり現実を見据えることがすごく大事なのです。それがどんなに自分の予想したものと、あるいは期待したものと違う不都合な事実であったとしても、事実を見ることから逃げちゃダメなんです。自分の考えが正しくても、間違っていてもいいので、事実を見続けることが大事なんです。

 専門家会議の人たちは、そこをちゃんとやってると思いますよ。でも、官僚っていうのはすぐに願望と事実を取り違えて、自分が正しかったという物語にすがりつこうとする習性がある。

 「事実なのかどうか」みたいなことが問題になると、「文書をなくした」とか「シュレッダーにかけた」とか言って、要は事実と意見があるときは事実のほうを曲げてしまって、データやファクトを尊重しないのが彼らの習い性になっている。だから危険なんです。

岩田健太郎
「新型コロナウイルスの真実㊱へつづく)

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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