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リニューアルされた近鉄の団体専用列車「楽」のゆったり旅

大阪の近郊エリアを進んで名古屋まで、楽しさいっぱいの4時間の旅

■リニューアルされた近鉄の団体専用列車「楽」のゆったり旅

「楽」大阪上本町駅に到着

 大阪上本町駅の地上ホームに背の高い茶系のシックな装いの4両編成の電車「楽(らく)」が入ってきた。近鉄の団体専用列車で、1990年より長きにわたって活躍してきたが、このほど30年ぶりに全面リニューアル。8月21日からの運転開始を前に関係者向け試乗会が行われたのだ。

「楽」の先頭車

 わが国で古来より使用されている漆をモチーフとした「漆メタリック」に輝く車体のところどころには5種類の和柄の模様がアクセントとして添えられている。これは近鉄沿線5地域(大阪、奈良、京都、伊勢志摩、名古屋)を表したものだという。「楽」のロゴのほか、近鉄の商標でもあるVISTA CARの表記で分るように、この電車の先頭と最後尾は2階建て車両、中間の2両はハイデッカー車両である。

楽のロゴ
VISTA CARのロゴは近鉄の2階建て車両の証

 うだるような猛暑と人いきれでむせ返るようなホームから車内へ入ると、エアコンが効いていて心地よい。案内されたのは3号車で、真ん中の通路を挟んで大型テーブル付きの座席がずらりと並んでいる。座席は転換可能で4人席にもなるけれど、とりあえずは2人席として利用する。天然木のテーブルの窓側にはランプが設置され、レストランのテーブルのようでもある。また、コンセントもあるので、スマホやタブレットの充電もできるので安心だ。何よりもシートピッチが広く121㎝もある。ゆったりしているし、「密」にもならないので安心だ。窓も大きくハイデッカー車両なので展望も大いに楽しめそうだ。
 シートの柄は、隣の席とは異なる。見回すと車体にアクセントのようにあしらわれた5種類の図柄がここにも使われている。賑やかであり、楽しいカジュアルな雰囲気が車内にあふれ、旅の期待が早くも高まる。

「楽」の車内
大型テーブルの様子

「楽」は、大阪上本町駅のホームを滑るように離れ、複々線の線路を東へ向かう。布施駅で奈良線と分れ、南東に進路を定め大阪の近郊エリアを進んでいく。臨時列車なので、特急や急行に何回も道を譲りながら、のんびりと走る。最新型の特急「ひのとり」なら2時間ほどで走破する名阪間を「楽」は倍の4時間近くをかけて、のんびりと進むのだ。
 さっそく車両基地のある高安駅に停車する。もっとも、ドアは開かないので、ホームに降りることはできない。のんびりと車内から通過する電車を見送る。
 高安を発車してしばらくすると、先頭の1号車へと案内された。「密」を避けるために、数人ずつのグループに分けて、ゆっくりと前面展望を堪能できるようにとの配慮は嬉しい。緑豊かな区間に差し掛かったのはラッキーだ。

時節柄、抗ウイルス加工・抗菌加工の表示
1号車の前面展望

 1号車は、2階席が2号車、3号車と同じ座席が並んでいるけれど、運転台のすぐ後ろだけはフロアが一段低くなっている。そこには、不思議な形をしたソファーがあり、前面のみならず、左右の車窓も楽しめる。「楽VISTAスポット」と名付けられたフリースペースなので、誰でも好きな時に好きなように利用できるのだ。運転台との仕切りはガラス張りなので、風景のみならず、すれ違う電車もよく見える。普通電車、急行から特急までバラエティに富んでいて見飽きない。伊勢志摩ライナー、アーバンライナーともすれ違ったけれど、列車ダイヤの都合で「ひのとり」は持ち時間の間にはやって来なかった。
 大和八木駅を過ぎ、JR桜井線と交差する桜井駅を出て、山深くなったところで大和朝倉駅に到着。しばし停車する。
 せっかくなので、車内にある階段を降りて1号車の階下室をのぞいてみた。靴を脱いで利用するフロアになっていて、様々な形のカラフルなクッションが置いてある。寝そべるようにリラックスしたり、こどもを遊ばせたりと、多様な使用方法が可能なフリースペースだ。
 最後尾の4号車もほぼ同じつくりではあるけれど、前面展望(大阪から伊勢志摩や名古屋へ向かうときは後方展望)が楽しめる「楽VISTAスポット」のソファーの形は全くことなる。階下のフリースペースもクッションの形が別物で、両方で遊んでみると面白いかもしれない。
 1号車と4号車の連結部分寄りには、荷物置場と4人向かい合わせのサロン席がある。セミコンパートメント風のちょっと異質な空間でもある。団体旅行のときに添乗員が休んだり、仕事をするスペースとしての利用も考えているようだ。

1号車階下室のフリースペース
4号車のフリースペース

 山間部を進むうちに、いつしか奈良県から三重県に入り、名張駅に到着。さらに進み、伊賀鉄道の電車が停車している伊賀神戸駅を通過すると、いよいよ沿線でもっとも険しい山岳地帯に差し掛かる。西青山駅を通過すると5600m以上の長さの新青山トンネル、続いて1000mを超える垣内(かいと)トンネルを潜り抜けると東青山駅に到着、しばし停車する。「東青山四季のさと」という公園が目に付く以外は何もなさそうだ。
 次第に山並みが遠ざかり、平地にさしかかる。川合高岡駅を通過すると、減速して大阪線に別れを告げ、中川短絡線に入り大きく左へカーブ。陽の向きが変わったところで名古屋線に入る。

東青山四季のさと
中川短絡線通過、大阪線から名古屋線へ

 ひらがなで書いても漢字で書いても一字という津(つ)駅に停車。ここで下車する人、新たに乗ってくる人がいる。松阪駅の有名駅弁店の女社長も乗り込んできてご挨拶。車内は賑やかになった。
 初めて耳にした豊津上野駅で10分ほど停車。特急や急行3本に抜かれ、ゆっくりと発車した。JRの貨物線が脇に見えてくると工業地帯四日市。特急停車駅の四日市はかなりのスピードで通過した。ホームには若い鉄道ファンがたむろして、「楽」の走りを撮影していた。沿線のいたるところで撮り鉄の姿を見かけたが、「楽」のリニューアルデビューは相当の人気だ。
 黄色くて可愛らしい北勢線の電車が見えると桑名駅に停車。すぐに発車すると、右に大きくカーブして、揖斐川、長良川、木曽川という三つの大河を豪快に渡る。隣のJR関西本線を進む北海道からやってきたDF200形ディーゼル機関車が牽引する貨物列車と並走するも、「楽」はさっそうと抜き去った。
 木曽川を渡ると、いよいよ愛知県。夕陽を背に、弥冨、蟹江を過ぎ、「楽」は名古屋市内に入る。右手にJRの広大な車両基地を見つつ、最後は地下に潜って近鉄名古屋駅に到着した。

DF200牽引貨物列車と並走

 ホームに降り立つと、大勢の報道陣や鉄道ファン、スマホ片手の女性客が「楽」を一目見ようと密集状態。人混みを避けつつ駅を抜け出した。
長いようで、終わってみれば楽しさいっぱいの4時間の旅。思い立って乗ることはできない車両だが、うまく日にちのあうツアーがあれば、また「楽」に乗って旅したいと思う。

取材協力=近畿日本鉄道

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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