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ベテランの存在感とはどういうものか。カープ・石井琢朗「タク論。」

広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第三回

■.カープ25年ぶり優勝にあった最大の要因

 昨シーズン、カープは25年ぶりのリーグ優勝を果たしました。そこには「タナキクマル」の平成トリオであり、神ってる鈴木誠也の爆発であり、投手陣で言えば、野村(祐輔)や中崎(翔太)の頑張り……と挙げればきりがありません。特に「表」に関しては、若い選手たちの活躍が目立ちましたが、その若い選手の活躍の「裏」には常に新井貴浩と黒田博樹の存在があったということです。

 もちろん、どっぷりと裏方に回ってチームを支えていたわけではありません。黒田で言えば日米通算200勝を達成した上での10勝、新井に関しては2000本を通過点としながらの3割、101打点。挙げ句の果てには、シーズンのMVPと十分に数字、結果を残しての活躍で、それこそチームを牽引していたくらいです。でも、彼らの本当の存在価値はそこじゃない。若い選手の精神的支柱として、どれだけチームを支えていてくれたかということです。

 

 それなりに強いチーム、組織を形成していく上で重要になってくるのがバランスだと、僕は思っています。特に人間関係のバランスはとても重要で、例えば一つのチームとして考えた場合、全て若手だけではダメだし、中堅だけでも、もちろんベテランだけでもバランスの取れたチームとは言えません。では、理想は? と言われれば、それはピラミッド型。

 会社なんかで社長がいて、部長がいて、係長がいてって下方に広がっていくあのイメージです。なぜ「上」がたくさんいてはいけないのか……そういう会社や組織もあるんでしょうけど、やっぱり役員だらけの会社があったら「下」は気を遣います。派閥なんかができてしまうかもしれません。そもそも派閥というのは、僕は「上」が作るものではなく「下」が「上」の力関係や顔色を窺って作るものだと思っています。ここでの派閥の是非は置いておいても、「上」が作る派閥というのは往々にして対立し、チームや組織に歪みを生み、決していい影響はありません。

 一方で強い組織には数は少ないけれど精神的支柱といわれるようなベテランが存在します。理想を言えば、各部署にひとりずつくらい、下から慕われるような実績を持った人がいるわけです。そういう意味では、優勝した昨年のカープには黒田と新井という両ベテランがいました。

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石井 琢朗

いしい たくろう

広島東洋カープ1軍打撃コーチ。1970年8月25日生まれ、栃木県佐野市出身。栃木県足利工業高等学校在籍2年時に夏の甲子園にエースとして出場。1988年、ドラフト外で横浜大洋ホエールズに投手として入団。高卒1年目でいきなり初先発初勝利を挙げるものの、野手への思いが捨てきれず1992年から内野手に。以降、攻守の要として活躍。1998年には不動の一番打者として最多安打、盗塁王を獲得。チーム38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献する。2009年に広島東洋カープに入団。2012年からはコーチとしてカープを支え、25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。著書に「心の伸びしろ」「過去にあらがう」(前田智徳・鈴川卓也と共著)などがありいずれも大きな反響を呼んだ。


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